著者:豊崎 由美 出版社:学習研究社 2008年11月刊 \1,575(税込) 228P
本書は雑誌「TV Bros.」に連載した2004年から2008年までの書評をまとめたものです。
著者の豊崎さん、辛口書評で有名です。
あまりの辛口ぶりに、酷評された大物作家が文藝春秋社にどなりこみ、おかげで一部読者から熱い支持を受けていた「Title」というサブカル雑誌が潰された――編集長以下ほぼそっくり編集部員が入れ替えられてしまった、という逸話の持ち主です。
ふだんは近寄らないようにしていたのですが、最近ストレスがたまっていたのか(笑)、つい、ふらふらと手にしてしまいました。
そもそも「正直書評。」というタイトル自体が挑発的だと思いません? まるで、他の人の書評は正直じゃないってケンカ売っているみたいじゃありませんか。
いや、ケンカ売ってるみたい、じゃなくて実際にケンカ売ってます。本書の「おわりに」では、「作家どころか同業者まで敵に回すようなこと書いちゃった」と開きなおっていましたよ。
イソップ物語の「金の斧」(池に斧を落としてしまった木こりのお話)に
なぞらえ、豊崎さんは書評する本を3種類に分類しました。
金の斧(親を質に入れても読め!)
銀の斧(図書館で借りられたら読めばー?)
鉄の斧(ブックオフで100円で売っていても読むべからず?!)
豊崎さんらしさが出ているのは、なんといっても「鉄の斧」です。どうやったらこれ以上、人をけなすことができるのだろうか、という見本のような罵詈雑言がポンポン出てきます。
少しだけ引用します。
(かなり劇薬ですので、強い刺激に弱い方は、本日は、ここから先を読み飛ばしください)
自分の作品をけなされて文藝春秋社にどなりこんだ、というのは渡辺淳一氏でした。
宿年の怨念とともにはき出されるトヨザキ節は強烈です。
知能指数の低い文章の波状攻撃で、読者を失笑の渦に巻き込む渡辺
淳一先生。物書きとして、この姿勢は見習わねばなりますまい。
ただ引用するだけで、批判的な文章を添えずともダメさ加減を露呈
してくれるのが、この小説唯一の美点なんですの。
この自己愛だだ漏れの陳腐な台詞に、脱力しない読者はおりますまい。
でも、この先誰もアナタの小説を読まなくなったって、オデだけは読
んだげる。相手になったげる。愛の流刑地で。
これだけひどい言葉をよく書き綴れるものだ。物書きとしての品格を疑う。
そう感じているあなたのために、もうひとつ引用します。
引用その2。坂東眞理子著『女性の品格』書評
基本的に間違ったことを言っているわけではない正論本、と前置きしたあとで、
自分の力で勝ち上がってきたエリートならではのピントのずれた発言も
多いんですの。
とジャブを打ったあと、次のような強烈なパンチを放ちました。
私が膝を打ったのはこんな提言。
〈ベストセラーや話題のノウハウものをどんどん読み捨てて、
題名さえ覚えていない読書をしていては、人生は豊かになりません〉
おっしゃるとおりでございます! というわけで、御著書の中で
手垢まみれの格言を使いがちな坂東先生には、「人の振り見て我が
振り直せ」という言葉をお贈りしとうございますの。
特に鉄の斧は強烈な毒を持っていますので、金の斧で取りあげた書評だけを読む方法もあるでしょう。
でも、トヨザキ社長の書評はふぐ刺しと同じ。
「ふぐは食いたし命は惜しし」と悩んでないで、鉄の斧までしゃぶり尽くすことをお勧めします。