次世代マーケティングプラットフォーム


副題:広告とマスメディアの地位を奪うもの
著者:湯川 鶴章  出版社:ソフトバンククリエイティブ
   2008年10月刊  \1,680(税込)  215P


次世代マーケティングプラットフォーム 広告とマスメディアの地位を奪うもの    購入する際は、こちらから


インターネットの普及でメディアはどう変わっていくのか、という長期的テーマを追いかけている著者が、今回はマスメディアを資金的に支える広告業界とインターネットの関係をひもといた本です。


著者が広告業界の関係者を取材していると、マス広告の影響力が低下してきていることを理解している人は、思ったよりたくさんいました。
しかし、業界人の関心は、既存プレーヤーとしていかに google の脅威に立ち向かうか、ということであり、今の予兆が示す広告の未来に気づいていません。


取材を通じて著者の湯川さんに見えてきたのは、広告業界そのものがなくなってしまうかもしれない、という恐ろしい未来でした。


湯川さんは、まず究極の未来、多くの人が望んでいる方向性とは何か、を考察します。
それは、「人は広告に何を望むだろう」と問うことです。


消費者にとって、究極の広告とは、自分の消費活動に情報を与えてくれるもの、欲望を満たしてくれるもので、なおかつ邪魔にならないのが理想です。
逆に、広告主の立場からいえば、何より自社の商品が売れること。できれば、なるべく少ない費用で多くの人が買ってくれることが理想です。

どんなに素晴らしい商品でも、必要としない人に広告しても無駄な費用がかかるだけです。
究極の理想をいえば、消費者が何か困っているとき、何か欲しいものがあるときだけ、タイムリーな解決方法、この商品が最適ですよという情報を伝えてほしい。


湯川さんは、この究極の広告の姿を、サザエさんに出てくる三河屋さんに譬えました。


個人へ情報伝達する手段がダイレクトメール(封書)しかなかった時代には、一人ひとりに情報をタイムリーに伝達しようとしても大きな費用がかかりました。
代わりの手段として、テレビCMや新聞広告などのマス広告が栄えていたのが20世紀です。
しかし、インターネット時代を迎えて、次々と新しい広告技術が生まれる時代になりました。


企業から消費者へ送るメッセージは、余分な費用をかけて余計な人に届けてしまわないようにターゲットを絞れるようになってきました。
やがて、広告というより販促のためのコミュニケーションになっていく。
そのコミュニケーション技術、21世紀の三河屋さん技術を開発した会社が、これからの広告の主役に躍り出るに違いないのです。


湯川さんの視点から見ると、Yahoo や google も、単に一歩先を行っているに過ぎない企業で、まだまだ新しい収益のしくみを持つIT企業が登場してくるかもしれません。


本書には、湯川さんの見た究極の理想形に近づくための、近未来の技術、新しい可能性を持つ企業の事例が多数登場します。


広告業界人にも、商品やサービスを提供する業界人にも、興味ある最新技術情報のかたまりといっていいでしょう。



湯川さんが『ネットは新聞を殺すのか』というぶっそうな題名を共著で出したのは5年前のことでした。その後「ネットは新聞を殺すのかblog」というブログを書き続け、内容をまとめて『ブログがジャーナリズムを変える』を出したのが2年前です。
その後、ポッドキャスティングという新しいメディアにチャレンジし、IT業界や広告業界の面白い人物のインタビューを「湯川鶴章のIT潮流」という番組名で発信しつづけました。


私もこの番組を毎回楽しみにしていたリスナーの一人です。ブログを書きはじめたばかりのIT業界人でしたので、とても興味深く感じたからです。
個人的なメディア経験になりますが、私が安いmp3プレーヤーを買ったのは「IT潮流」を聞きたい! というのがきっかけで、その後ipod購入に到りました。今では、私の生活に欠かせないipodですので、大げさに言うと、湯川さんは私のライフスタイルを変えた人、ということになります。


新しい媒体で実際に発信する経験を通して取材や考察を深めてきた湯川さんですが、この本でメディアの未来探求を終わりにする、と宣言しています。メディアと広告の未来をはっきり見ることができた、という確信と満足感を得たからです。


取材を続けてきてこの分野のエキスパートになったというのに、スッパリと終了宣言をするというのは、ものすごくカッコイイことです。はやりの言葉でいえば、「品格」さえ感じます。


次に湯川さんが追求するテーマは何でしょう。


来年になるか再来年になるか分かりませんが、新しい湯川さんの本が楽しみです。