メガヒットの「からくり」


副題:実例で読み解く発想法とテクニック
著者:安部 徹也  出版社:角川SSC新書  2008年11月刊  \819(税込)  190P


メガヒットの「からくり」―実例で読み解く発想法とテクニック (角川SSC新書)    購入する際は、こちらから


マーケティング理論を実例を用いて分かりやすく教える一書。


なぜ、『Wii』は世界を席巻したのか? とか、なぜ、『雪国もやし』が売れたのか? など、よく知られる実例を解説しながら、マーケティングの秘訣を伝授する、という趣向だ。「おわりに」では、マーケティングの知識は全ての人に役に立つ、と自画自賛していて、実例として島田紳助を挙げている。島田紳助がここまでビッグになったのもマーケティング戦略のおかげ、というわけだ。


正確な意味は分からないが、AIDMA、ブルーオーシャン戦略くらいは聞いたことがある、というレベルの私には、そこそこ面白かった。


書評書きとして『人間失格』や『カラマゾフの兄弟』の最近の爆発的ヒットの理由の分析が面白かったのはもちろんだが、あまり成功例ばかりあげられると、「あと付けなら、何でも言えるよ」と突っ込んでみたくなる。


その点、たとえば「iponeはどのようにしてキャズムを超えるのか?」のように、少しだけ未来予測を述べているところは興味深い。


イノベーター理論によると、新製品を買う人の性格は、発売時間とともに変わってくる。
まだ、誰も持っていない段階で飛びつく2.5%の人を「イノベーター」、次の新しもの好きな13.5%を「オピニオンリーダー」と呼ぶ。そのあと「アーリーマジョリティ」と呼ばれる34%の人々に受け入れられて、新製品はやっと世の中の半分の人に支持されるようになる。(ちなみに、その後34%は「レイトマジョリティ」、最後の16%は「ラガード」という)


この「オピニオンリーダー」と「アーリーマジョリティ」の間に横たわっている深い溝を「キャズム」といい、iponeがこのキャズムを超えるにはどうすればよいかを著者は提言している。
鍵を握るのは製品の機能と価格。最低基本料金の改定で価格面の魅力は増した。だから、あとは機能を改良すればよい。メールやワンセグ、お財布ケータイ機能を追加できるかどうかが分かれ目だ。――と、著者の安部氏は言うのだが……。


スティーブ・ジョブズは、こんな一般論に絶対に耳を貸さないだろう。ワンセグ、お財布ケータイ機能が付いたiponeが発売されるなんて、想像できない。
そもそも、iponeがキャズムを超える、つまり携帯利用者の半数近くがiponeを持つことになる日が来るとは思えない。
とすると、「iponeはどのようにしてキャズムを超えるのか?」という問いの立て方自体が間違っているのかもしれない。


まだ結果の出ていない未来については、マーケティング門外漢の私でも自説を述べることができる。未来を予測しても、その予測が信じてもらえることは難しい。
もっと難しいのは、予測が当たることだ。
さあ、iponeは本当にキャズムを超えるのか?