笑いの現場


副題:ひょうきん族前夜からM−1まで
著者:ラサール石井  出版社:角川SSC新書  2008年2月刊  \798(税込)  205P


笑いの現場―ひょうきん族前夜からM‐1まで (角川SSC新書)    購入する際は、こちらから


お笑い番組が好きで、よくバラエティー番組を見ています。
単なる一視聴者としてワハハッと笑いながら見ているだけなのですが、ひっぱりだこだった芸人さんが、あっという間に消えてしまうお笑い界というのは、本当に厳しい世界だなあ、と思うことがあります。


「♪なんでだろ〜、なんでだろ」で一世を風靡した「テツandトモ」を覚えていますか?


「ゲッツ!」のダンディ坂野
毒舌で芸能人を斬っていた“ギター侍”こと波田陽区
「フォー」でテレビに出まくっていたレイザーラモンHG
みなさん、ほとんどテレビで見なくなりました。


「俺もビリーも一発屋。でも、そんなの関係ねぇ!」と自虐ネタにしていた小島よしおは、本当に一発屋で終わるかもしれませんし、日テレで念願のマラソンランナーになったエド・はるみも、一時期の「グー!」の勢いが感じられなくなってきました。


そんな浮き沈みの激しいお笑い界で、ラサール石井は30年以上生き残ってきました。


決してトップランナーではありません。1977年に「コント赤信号」を結成してお笑いブームに乗ったあと、「コント赤信号の石井」から「ラサール石井」としてキャラ立ちし、少しずつ地歩を築いてきました。
クイズ番組の「平成教育委員会」では優等生としてふるまい、お笑い芸人なのにお勉強ができる、というポジションを勝ち得ました。
アニメ「こちら葛飾区亀有公園前派出所」では主人公の両津勘吉の声を担当し、すっかり「両津といえばあの声」と定着しています。


本書は、お笑いの世界を内側から見てきたラサール石井が、この30年のお笑いの歴史をふり返り、ちょっと理屈っぽく分析した評論集です。


私のように、単に視聴者として見ている人間からすると、何年かに一度「お笑いブーム」があったなあ、という印象しかないのですが、さすがプロの芸人。しかも、若手漫才の登竜門「M-1グランプリ」の審査員を何度も務めているというラサール石井ですので、お笑いの歴史を区分するところからはじめます。

  • 第1次寄席ブームと第2次寄席ブームの時代背景。
  • 漫才ブームとは何だったのか。
  • ひょうきん族」の誕生と終焉。
  • お笑い第3世代の登場。
  • リアクションの時代とネタの時代。


それぞれ時代背景やお笑いの特徴をきちんと分析し、把握していることがよく分かります。


コント赤信号がどのように結成され、何をきっかけに人気を得ていったのか。自分の経験を織りまぜながら語ってくれるギョウカイ分析は、秀逸です。


M-1グランプリ」の分析から徐々に話題は専門的になり、第2部の評論になると、理屈っぽさ全開です。しかし、お笑い芸人列伝と銘打った5組のお笑い芸人(ビートたけし明石家さんま志村けんとんねるずダウンタウン)の評論は、それぞれの芸人の特徴や強み、それに弱みもちょっとだけ触れていて、お笑いファンにとっては一読の価値がある内容に仕上がっています。


お笑いの世界は、シリコンバレーベンチャー企業に似ています。
「流行」や「運」に左右されながら、お客さんに少しでも楽しんでもらう方法を真剣に考えて提供するところがそっくりです。


明石家さんまや、北野武や、タモリのようなビッグネームになれなくても、自分らしいポジションを見つけることによってギョーカイに長く生き残る実績を示したのがラサール石井です。


マイクロソフトやグーグルのような成功を収められなくても、2番手でしぶとく生きていく。
そんな裏読みしながら読むのも面白いですよ。