涙の数だけ大きくなれる!


著者:木下 晴弘  出版社:フォレスト出版  2008年9月刊  \1,365(税込)  174P


涙の数だけ大きくなれる!    購入する際は、こちらから


小説家の山本周五郎は、「泣かせる小説なら造作なく書ける」と言いました。うすっぺらな義理人情ではなく、人間性の根源に迫ろうと努力するなかで、心の底からこみ上げてくる人間同士の共感を表現しようとしたのです。


そんな周五郎を愛読してきたからでしょう。
この「晴読雨読日記」ブログの他に、「ココロにしみる読書ノート」なんていうメルマガを書いていますが、私は「泣ける映画」や「泣かせる小説」が嫌いです。さあ、泣いてください! という、押しつけがましさを感じるからです。


ですから、題名に「涙」が含まれている本などもってのほか。
本書もあまり期待せずに読みはじめました。


いかにも「泣いてください」という話が出てきたらパスしよう。ところが、警戒しながら読んでいるうちに、最後まで読んでしまいました。


よし、決めた!
いつもは避けているジャンルの本を今日は取り上げることにします。



著者の木下さんは、関西の有名進学塾の講師として、多くの受験生を育ててきました。
生徒たちに勉強させるには、教え方のテクニックを磨くことも大切ですが、なにより大切なのは、生徒たちの「心を動かす」ことです。


生徒にやる気を起こさせるためにも、木下さんは授業のたびに「勉強は何のためにするのか」、「幸せって何だろうか」など、いろいろな話をするようになりました。


いつの頃からか「先生、いい話を聞かせてください」と塾の卒業生が寄ってくれるようになります。


感動とともに、あふれた感情は人を浄化する。
人が変わるときには美しい涙がある。


木下さんの長年の積み重ねのなかから、本書には思わず泣いてしまう選りすぐりの話がいくつも収録されています。


ひとつ一つの話が本書の命ですので、内容はお教えできませんが、出版社の本書のページに1話だけ音声つき動画が載っていますのでそちらを紹介しておきましょう。


「あるレジ打ちの女性」(↓)
    http://www.forestpub.co.jp/namida/


ちなみに、用心ぶかい私はこの「Story 2」では泣きませんでしたが、次の「Story 3 ある生徒の高校受験」で涙を浮かべてしまいました。
どうも、貧乏ものに弱くって……。


しかし、私が警戒していたような「いかにも泣いてください」という話には出会いませんでした。


むしろ、後半になればなるほど、なぜ生徒達は感動したのかを解説し、保護者に感謝の涙を流してもらうために塾全体で力を入れている演出の種あかしが行われます。
「演出」といっても、決してヤラセではなく、いかにもオーソドックスな方法を用いています。


何より、生徒や保護者を高いところから操作しているような視点はなく、純粋にこども達のモチベーションを高めるための工夫を行っているのです。


山本周五郎のように、冷静に読者の感動の根源を探求している。……といっては褒めすぎでしょうか。


それにしても、私が思わず涙ぐんでしまったお話、どこかで読んだ気がします。
念のため、木下さんの前著『ココロでわかると必ず人は伸びる』でググッてみたら、私のパソコン上にも15件のヒットがありました。


開いてみたら、去年9月5日付け「読書ノート」の原稿でした。


そうかあ。ちょうど1年前に前著も読んでいたんだあ。