サブプライム問題の正しい考え方


著者:倉橋 透 小林 正宏  出版社:中公新書  2008年4月刊  \777(税込)  221P


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去年あたりから流行語のように使われている「サブプライム」って、いったい何なの? という疑問にていねいに答えてくれる解説書。
真正面から答えてくれるのは嬉しいのだが、金融・経済・アメリカ住宅業界の専門用語がポンポン飛び出すので、畑違いの読者が本気で理解しようとするのは無理だ。


たとえば、104ページの一部を引用してみる。

これは、SIVが流動性(Liquidity)に窮して民間MBSやCDOを投げ売りすることにより市況が悪化するのを防ぐため、SIVの資産をM−LECが買い取って市場が安定するまで支えることにより流動性を向上(Enhance)させる、というもので、財務省も関与し、90日以内の設立を目指すと発表された。


もちろん「SIV」「MBS」などの用語は、この記述より前に解説されているとはいえ、ニュースで見たこともない用語がポンポン飛び出すと、何を説明しているのか分からなくなる。まるで、ロシア文学に慣れていない人が、いきなり登場人物の多い『戦争と平和』を読んだときのようだ。「○○スキー」とか「○○ニコフ」がたくさん出てくると、誰が誰やら混乱して、チンプンカンプンになってしまう。


分からないところは読み飛ばす。そう決めてから読み進むことをお勧めする。


分からないところを読み飛ばしながら僕が理解したことを、少し書き留めておく。
アメリカの住宅ローンにはいろんなタイプがあり、信用力の高い人(=クレジットカードの滞納の少ない人)向けに低金利で貸し出す住宅ローンを、「プライム」ローンと呼ぶそうだ。
これに対し、クレジットカードの滞納が多い人は、ローンを組んでも返してくれなくなる可能性が高くなるので、金利が高く設定される。この、信用力の低い人向けの民間ローンが「サブプライムローン」である。


アメリカの住宅市場は値上がりを続けているので、プライムローンだろうが、サブプライムローンだろうが(金利が安くても、高くても)、住宅を手に入れて何年か先に売却すれば儲かる。そう考える人たちが多くなって、ますます住宅価格は上がる。
ローンを組むほうが楽観的なところへきて、世界的なカネ余り現象と、ローンの証券化がからみあって、貸し出す方もイケイケになってしまった。いい加減な審査で、どんどん貸し付けてしまう。


要するに住宅バブルだったのだ。


しかし、バブルはいつかはじける。
第一次世界大戦後の大恐慌以来というアメリカ住宅市場の暴落がローンを組んだ人たちを直撃し、高利子ローンを払い続けることも売ることもできない人たちが続出した。


巡りめぐって、証券化されたサブプライムローンを買っていた全世界の金融機関が損失を被り、深刻な経済問題になってしまっているのが「サブプライムローン問題」。
本書を読んで、この問題がよく理解できた――ような気がする。


日本のバブル崩壊時は、後に「失われた10年」と言われるほど解決が遅れたが、資本主義の先進国アメリカも、決して解決策を持っているわけではない。そもそも、証券化によってリスクフリーになったように扱っていたこと自体が間違っていたようだ。いくら証券化して危険を分散したようでも、住宅市場全体が暴落していまえば損失を被ってしまうのだから。


本書の「終わりに」にガルブレイスの言葉が引用されている。投機について「経済学の巨人」が語った次の言葉がズシンと腹にこたえる。

しかし、確実なことが一つある。それは、こうしたエピソードはまた生まれるだろうし、その先にはもっとあるだろう、ということである。昔から言われてきたように、愚者は、早かれ遅かれ、自分の金(かね)を失う。また、悲しいかな、一般的な楽観ムードに呼応し、自分が金融的洞察力を持っているという感じにとらわれる人も、これと同じ運命をたどる。何世紀にもわたって、このとおりであった。遠い将来に到るまで、このとおりであろう。