イスラームから考える


著者:師岡カリーマ・エルサムニー  出版社:白水社  2008年4月刊  \2,100(税込)  217P


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著者の師岡さんは、エジプト人の父と日本人の間に生まれ、小学校の途中で日本からエジプトに転校した経験をお持ちです。もちろん、日本語もアラビア語もネイティブ・スピーカーとして会話できるバイリンガルとして育ちました。
現在、NHKラジオ日本でアラビア語アナウンサーを務めるながら、慶應義塾大学講師、獨協大学講師をつとめ、アラブの文学や歴史に関する執筆活動も行なっておられます。


人とちょっと変わった経歴のおかげで、師岡さんはいく先々で根ほり葉ほり質問されることがあります。


「じゃあ、ちゃんと1日に5回お祈りをするんですか」とか、
「お酒を飲まないのは宗教上の理由ですか」とか、
「でも、イスラームでもお酒を飲む人はいますよね」等々。


いいかげんに、そのステレオタイプな見方をやめてください!
たしかに私はベールも被っていないし、西洋音楽を勉強したりしているけど、ふつうのイスラーム教徒なんです!
もっといろんなイスラーム教徒がいることを知ってください!


と、はんぶんキレ気味に書かれたのがこの本です。


9・11のおかげで、平気で自爆テロするイスラム教は怖い、というイメージが世界中に蔓延し、日本にも「なんとなく怖い、キライ」という人が多いように感じます。


そんなことはない、と師岡さんが最初に挙げたのは、「悪の枢軸」という2人組のコメディグループでした。アラブ系アメリカ人の2人は、アラブ人への偏見をさかてに取って、ネタとして笑い飛ばしています。


たとえば、FBIから指名手配されているテロ容疑者と同姓同名というアハマド・アハマドのジョーク。


 「白人はいいよな。空港に行くときは、どうだい、出発の1時間半
  とか2時間前に行けばいいんだろ? 僕は1ヶ月半前から行くぜ」


搭乗してシートベルトも締めたところで、「アハマド・アハマドさんですか? ちょっと同行願います」と機外に連れ出される場面は爆笑ものだそうです。
偏見を笑いに変えるなんて、カッコいいじゃありませんか。


私がマホメットの教えについて知っているのは、高校の世界史で教わった程度の知識です。そんな私が認識をあらたにしたことがたくさんありましたが、3つだけご紹介します。


その1――発音の微妙なちがい
イスラム」ではなく「イスラーム」の方がアラビア語に近いようです。ほかに、「マホメット」ではなく「ムハンマド」、「コーラン」ではなく「クルアーン」が正しいそうです。


その2――女性のベールはイスラームの教えではない
実際にクルアーンが求めているのは、人を惑わせないよう配慮した慎み深い服装ということで、「その髪を隠しなさい」と命じたわけではないそうです。
社会的にベールをまとう習慣はありますが、著者の師岡さんもベールを被らないことを公言しています。


その3――「イスラーム原理主義」は西洋社会のことば
原理主義」はそもそもキリスト教用語であり、イスラーム自身が使っている言葉ではありません。反米的政治団体アメリカのメディアがレッテルを貼っているのが実態のようです。


イスラーム原理主義」というと、極端な制約と禁止の教えというイメージがあります。
しかし、師岡さんが指摘するところによると、ムハンマドは、
  「過剰は身を滅ぼす」
と教えたり、
  「女は男と対等であり、義務と同じだけの権利を持つ」
と宣言するなど、当時としては進歩的・急進的な内容でした。


むしろ、極端な制約と禁止の教えにしてしまったのは、ムハンマドの教えを正しく消化できなかった男たちの責任なのです。


この他、権力者を讃える詞を作らずに恋の詞をたくさん作った詩人の作品が残されていることや、パレスチナ問題の難しさなど、一面的なアラブ報道では見えてこないイスラームの姿をかいま見ることができます。


ステレオタイプに陥らないよう、知見を広めてくれる一書でした。