ウチのシステムはなぜ使えない


副題:SEとユーザの失敗学
著者:岡嶋裕史  出版社:光文社新書  2008年3月刊  \777(税込)  205P


ウチのシステムはなぜ使えない SEとユーザの失敗学 (光文社新書)    購入する際は、こちらから


本書が想定している対象読者は、ITシステムを導入しようとしているユーザ企業の担当者や役員の方々です。


外部の会社に委託発注してITシステムを作ってもらったはいいものの、考えていたものと違うものが出来あがった、思い通りに動いてくれない、などという(IT業界ではありがちな)事態にならないよう、ご注意下さい。そのために、世間の常識と少し違った人たちがはたらいているIT業界の実情を、ほんの少しお教えしましょう。――というのが本書の主題です。


著者の岡嶋さん、ただ者ではありません。
こんなに退屈そうなネタを、抱腹絶倒のお笑い本に仕上げたのですから。


題材が題材だけに、やや専門用語が多く楽屋ネタも多いので、誰にでもお勧めできる本ではありません。でも、ご家族にギョーカイ関係者(もちろんIT業界の)がいらっしゃる方、友人・知人にギョーカイ人をお持ちの方。家庭円満のため、友だち付き合いで無用な衝突をおこさないため、ぜひぜひ本書のご一読をお勧めします。


もちろん、ギョーカイ関係者には「必読の書」としてお勧めですよ〜。


まず第1部「SEという人々」で、SEとは、そも何者なのかを説明しています。


ギョーカイを知らない人が最初からつまづかないように、少々むつかしい言葉には注釈をつける親切さがうれしいです。
ひとつ、ふたつご覧ください。

  注4 M&A Mergers & Acquisitions :企業合併買収。
  注5 ホリエモン ライブドア元代表取締役社長。大金持ち。


ん? ホリエモンの説明の最後の「大金持ち」は少し余分な解説のように思いますが……。ITバブル時代の雰囲気を注解するのですから、まあいいでしょう。


そろそろ岡嶋さんの本領が発揮されるのは、次の「注」からです。

  注10 バグ bug:プログラムの間違い。初期のコンピュータで、
     虫による回路のショートが頻発したことから、システムの不具
     合そのものをバグ(虫)と呼ぶようになった。報告書に「私の
     ミス」と書くより、「バグが発生」と書いた方が責任の所在を
     曖昧にできる。


たしかに「バグが発生」と書くと、台風が発生したときのように、「天のしわざだから仕方がない」という雰囲気を醸し出しています。


ダメですよ岡嶋さん。こんなこと、ギョーカイの外に教えちゃ!


この他にも業界内だけの秘密にしておきたいことがたくさん暴露されているのですが、ここでは、差し障りのなさそうな例をいくつか挙げておきましょう。


その1。
SEは文書ばかり書いているという実態を暴いたあと、岡嶋さんは次の
ように続けました。

  ペーパーレスな社会を作ると期待されていた情報化社会が、実際に
  は書類の量を極大化させているのは、何とも皮肉な話である(コン
  ピュータというのは使えば使うほど油断のならないものに思えてく
  るので、「最後に信用できるのは紙だ」と考えている技術者はとて
  も多い)。SOX法が完全導入された暁には、書類の津波で圧死す
  るSEも出現するだろう。恐ろしいことである。


その2。
SEがどれだけ苦労してシステム設計しているかを説明するくだりで――

  この要件定義書はとても文学的な言葉で綴られていることが多い。
  どうにでも意味が取れる文学的修辞など、モノを設計するプロセス
  に含めるのは言語同断なのだが、顧客、営業、上級技術者の鼎立に
  よる微妙微細な政治的駆け引きと妥協の産物として、玉虫色かつ抽
  象的・形而上学的な要求が突きつけられることが多い。


その3。
同じ会社の技術者と営業担当者の仲が悪いことが多いことを指摘して――

   技術者に言わせると、「営業というものは、できもしない案件を
  ほいほいと引き受けてきてしまう」。
   営業さんに言わせると、「技術者というものは、顧客の要求する
  技術ではなく、自分が使いたい技術をもてあそんでいる」。
   どちらも真実である。


いかがでしょう。
ギョーカイ人には、岡嶋さんがただ者ではないことが良くご理解いただけたと思います。


いま一つ何がおもしろいのか分からない人のために、本書の第3部では、SEと営業担当者と顧客の思惑が入り乱れたらどうなるかを悲喜劇で見せてくれます。


社内で何か手柄をあげたいと思っている顧客のところに、ともかく売上を上げたいIT会社の営業担当者がSEを伴って訪問しました。既存システムのリプレースという、何の変哲もない提案のはずなのに、営業担当者は叫びました。


  我が社には、我が社にはWeb5.0的な技術があります!


Web2.0と聴いても驚かなくなった顧客も「5.0」には食いついてきました。
混乱のなかでシステム開発は進み、やがて迎えたカットオーバーの日に起きた事件とは……。


たとえドタバタでも、最後の最後まで笑かせてくれる吉本新喜劇のように濃い〜本でした。