副題:すべての人の心をひとつにするために
著者:高木 善之 出版社:総合法令出版 2007年8月刊 \1,575(税込) 312P
ipodで私が聞いているポッドキャスティング番組のひとつに、「野口嘉則の “幸せ成功法則”<ポッドキャスト>」があります。この番組は、5月13日号の「読書ノート」で取り上げた『3つの真実』の著者である野口嘉則さんが届ける声のメッセージです。(こちらを参照ください)
マスコミに顔を出さない野口さんが肉声で語りかけてくれる、ということを知人のブログで教えてもらい、聞きはじめました。
野口さんが教えてくれる「自己実現の秘訣」や「幸せに成功するための法則」を毎回たのしみに聞いている中で、1月に放送した「第17回 成功者や偉人たちの2つの共通点」は、特に聞きのがせない内容でした。
野口さんが今まで読んできた本のなかから、ベストスリーを発表し、推薦していたのです。
本書『オーケストラ指揮法』は、そのベストスリーに含まれていて、野口さんは、次のように推薦していました。
「タイトルからすると何か音楽の本のように思えるかもしれませんが、
これはまさに幸せな生き方に関して追求した本です」
野口さん推薦のベストスリーと聞けば、もう読むしかない。
私からもお勧めです。
では、今回はこのへんで……。
と、たまにはサボッてみようかと思いましたが(笑)、本書には書かずにいられない気付き・感動・共感が満載です。
いつもより、さらに長い紹介文になりますが、おつきあいください。
オーケストラには個性の強い人たちが100人ちかくいます。一人ひとり楽器も考えも違いますが、心をひとつにしなければいい音楽はできません。
著者の高木さんは、オーケストラ指揮の経験から、家庭や職場でも最高のハーモニーをかなでる方法を会得しました。その高木さんの指揮法を、本書は交響曲になぞらえて第1楽章から第4楽章の4つのパートで披露しています。
第1楽章 オーケストラ指揮法
多くの交響曲と同じく、高木さんが作曲・指揮する本書もアレグロ(快速に・陽気に)ではじまりました。
合唱団の指揮をしていた高木さんが、ある年、オーケストラと協演することになりました。合唱団から申し入れた協演なので自分が全体指揮をすると思っていたところ、「オーケストラの指揮をしたことのない人にオーケストラを任せるのはムリ」と断られました。
なんとかできませんか、と食い下がり、オーディションを受けるチャンスを与えてもらいました。
オーディション当日、音大生を含む10人が控え室に揃いました。
テスト会場の様子を見ていると、身も凍るような怖ろしい光景が目に入ります。
指揮者候補が数分の自己紹介、自分の曲想を語ったあとにタクトを構えます。
しかし、楽団員は楽器を構えません。
演奏をはじめる資格もない、と態度で示されたのです。
演奏体制に入ることすらできず、次々と控え室に戻ってくる候補者を見ているうちに、自分の番になってしまいました。
どうせ楽器を構えないのなら、自己紹介も説明もやめちまおう!
ひらき直った高木さんが、指揮台でいきなりタクトを振り上げたところ、なんと! 全員が楽器を構えました。
「おお、構えた!?」
一気にタクトを振り下ろすと、「ドーン!」とフルパワーのフォルテッシモ。あとは思い通りの指揮をすることができました。
結果は、もちん「合格!」
実際にオーケストラを指揮するようになった高木さんは、プロならではの厳しい世界で、指導者として大切な多くのことを学びました。
たとえば、練習中に誰かが間違えたときのこと。
指摘できなければ、「この指揮者は、ミスに気づきもしない」とナメられて即失脚です。
といって、自分はきちんと分かっているぞ、とばかりにミスをいちいち指摘したり、「プロなんだからしっかりしろ」などと面罵したりしてもいけません。
プロとはいえ、初見演奏(楽譜を見ながらのはじめての演奏)ではミスすることもありますが、自分のミスには気づくものです。
正解はありませんが、高木さんの場合は、間違えた人をチラッと見て、心の中で「違うよ」と指摘することにしました。こうすれば、指揮者がナメられることもありませんし、間違えた人に恥をかかせることもありません。
同じく、楽団員から質問を受けたときに、理路整然と答えるのはタブーです。
オーケストラのプロは、教科書的な正解を求めていないからです。質問者によっては、指揮者を困らせてやろうという悪意が込められていることもあるといいます。
正解はありませんが、高木さんの場合「あなたはどう思いますか」と質問した人の考えを聞きます。得られた答えに対して「正しい」とも「私はそう思わない」とも言わず、「なるほど、はい、指揮を見てください」と先へ進めるのです。
音楽の世界に正解も不正解もない。
あいまいに聞こえるかもしれないけれど、あとは指揮者がアイ・コンタクトや全身をつかって発散するニュアンスで、楽団員の心をひとつにまとめあげていくのです。
あなたもオーケストラの指揮者と同じです。
周りの人たちの調和をこころがけることで、すてきなハーモニーが生まれるのです。
第2楽章に続く余韻を残し、高木さんは第1楽章を終わりました。
ちょっと第1楽章の紹介が長くなってしまいました。
この調子だと、マーラーやブルックナーの大作のようになってしまいます。ちょっとテンポを上げましょう。
第2楽章 交通事故
演奏テンポは、ベートーベンの「英雄」第2楽章と同じく Adagio assai になりました。
かつての高木さんは、実業団の合唱指揮者としてグイグイ引っ張っていくタイプでした。
第1楽章の指揮者スタイルと違い、質問には理路整然と答える、反対意見は論破する、団員を信じない、任せない。
コンクールの全国優勝を目指し、人を傷つけながら練習を重ねたもの、2位を獲得したあとは、3位、2位と順位は一進一退。
どうしても1位になることはできません。
「勝てない指揮者」という陰口まで聞こえ、「俺はダメなんだ」という自信喪失と、「いや、きっと勝てる」という自信の間を行ったりきたりしていた高木さんは、命にかかわる交通事故に遭いました。
手首の粉砕骨折、右足切断のおそれ、首の骨の損傷。再起不能といわれ、寝たきりの生活のなかで、高木さんは自分との対話をはじめました。
どうして勝ちたいの?
どうして音楽をやっているの?
何のために努力するの?
出世って何?
いい会社って?
自問自答は際限なくつづくように思われました。
とうとう、究極の質問に出会います。
何のために生きるの?
葛藤をかさね、これまでの価値観が崩れていくなかで、高木さんは新しい生き方を発見しました。
心が決まったしるしのように、ある日、指がピクピクと動きます。骨盤の精密検査でも回復の兆候がみられ、車イスにも乗れるようになりました。
太陽の光を喜び、風のばらしさに感動を受けるなかで、急速にリハビリ効果があがり、とうとう社会復帰をはたしたところで、第2楽章が終わります。
第3楽章 新しい生き方
演奏テンポは、Allegro vivace です。
勝つことを目指して引っ張ってきた合唱団でしたが、退院後の高木さんは“幸せの音楽をしたい”と思うようになりました。
悩んだすえ合唱団に辞任の意向を伝え、「もう戦わないんでいいんだ」としみじみした幸せを味わう高木さん。
合唱団もメンバー間で真剣に話し合いをかさねたのでしょう。
1ヶ月後に、「幸せの音楽をやってみようということで意見が一致した」とカムバックして欲しいという希望が伝えられました。
ここで、第1楽章の練習風景のテーマが再演されます。
一変した練習風景にはじめは戸惑った人もいましたが、自由にのびのびとした表情豊かな音楽が奏でられるようになりました。
その結果、あれほど遠かったコンクール1位を獲得してしまいます。
合唱団のことばかり書いてきた高木さんは、ここで、本業のコンピュータ開発プロジェクトに曲想を転換させます。
交通事故に遭うまえの管理的な手法をやめ、新しい指揮法と同じように、新しいプロジェクト運営の方法を試してみました。
ミスした部下には「失敗を取り戻すために、きょうは徹夜だ」と叫ぶのをやめ「残念だね、どうすればいい?」と質問するようにします。部下に質問されたとき、一生懸命に自分の意見を通そうとしていたのが、「君はどう思う?」と聞くようになりました。
不思議なことに、この方法のほうがミスが減り、効率が上がり、プロジェクトを成功させることができました。
職場のつぎは、家庭問題です。
高木さんは、指揮法の家庭生活への応用と成功体験も紹介してくれます。