副題:巨大掲示板管理人のインターネット裏入門
著者:ひろゆき 出版社:扶桑社新書 2007年7月刊 \777(税込) 255P
梅田望夫さんは『ウェブ進化論』や『フューチャリスト宣言』を通じてインターネットの希望に満ちた将来を語っていました。
逆に「インターネットは別にたいしたもんじゃない」「明るい未来は無い」と水を差している本が本書です。
梅田さんの熱い語り口と正反対で、クールに語るひろゆき氏の口調は決して「感動する」とか「心にしみる」ものではありません。しかし、同じインターネットについてこれだけ正反対の意見があるということ自体に興味を引かれました。
いつもと違って手放しで推薦できる本ではありませんが、ちょっと距離を置いて読んでみると、これほど「おもしろい」本は無いかもしれません。
著者のひろゆき氏は、巨大掲示板「2ちゃんねる」の作成者であり、管理者です。
2ちゃんねるは多くの民事訴訟や賠償請求裁判を抱えていて、最初はひろゆき氏も裁判に出ていました。しかし、あるとき裁判に欠席しても何も起こりませんでした。その結果「すべて相手の言うとおり」と解釈されて敗訴しても、何も困ったことにならなかった。
だから、裁判には出ないことにした、とひろゆき氏は本書で語っています。
こんな著者ですので、本書全体が人を食った色調にあふれています。
いくつか拾ってみましょう。
・(グーグルがマップやメールなどの新しいサービスを展開するのは)
お金の使い道がないから
・ミクシィの時価総額を見ると、いまだにネットバブルだと思います。
・(利用者が内容を作っていくCGMで成功した数少ない例のひとつは)
「出会い系サイト」です。
・(3D仮想現実空間「セカンドライフ」について)
お金を支払ってまでセカンドライフの中で楽しまなくても、現実に
楽しいことはたくさんあります。
・今後インターネット技術では発明は生まれないでしょう。
・インターネットに未来的な何かがあるということ自体が、既に誤解
なのです。
あまりの物言いに、けっこう辛口な論調の佐々木俊尚氏までもが、本書の対談で次のようにつぶやいていました。
「西村さんの言っていることは、身も蓋もなさすぎてついていけない」
「せっかくそうやって頑張っている人がいるのだから、そこまで言わなく
てもいいかなって思うんだけど」
身も蓋もないひろゆき氏の論調は、最終章の小飼弾氏との対談で更に盛り上がります。
正義感の強い人は、本書を壁に叩きつけないよう注意が必要です。
最後の最後に私が呆れてしまったのは、本を出すということへの情熱がまったく感じられないことです。
インタビューをまとめてできた本なので、ほとんど自分では文章を書いていないということが、悪びれもせずに「あとがきです」に書いてあります。
対談相手の小飼弾氏も自身のブログで誤植を指摘していましたが、その小飼氏も指摘もれしている(らしい)のが、次の一節です。
『ウェブ進化論』の梅田さんに対して、カリスマプログラマーで
ある小飼弾さんが、ブログ上で、「それで、梅田さんは、『はてな』
でどんなコードを書いたの?」という反論をしていました。僕もそれ
だと思うのです。
割と頻繁に本の内容や著者をけなす小飼氏らしい発言と思い、念のため小飼氏のブログを検索してみましたが、見つかりませんでした。
それらしい箇所では、
「ところで、お前はてなのコードどんだけ書いたの?」
という別の人のブログの一節を引き合いに出し、次のように書いていました。
「梅田望夫は、株式会社 はてなのコードを書いているんだよ。
それがトリビアルな仕事だと思うか?」
ここでは梅田氏を褒めているではありませんか。
ブログの引用記事を逆の意味に取り違えることはよくあることですが、書籍になるとある意味で凍結してしまうのですから、よーく注意してもらいたいものです。
いつもは褒め言葉の多い私も、思わず批判がましいことを書いてしまう。
それくらい毒の強い本です。
取り扱い注意です。