そうだ葉っぱを売ろう!


副題:過疎の町、どん底からの再生
著者:横石 知二  出版社:ソフトバンククリエイティブ  2007年9月刊  \1,575(税込)  215P


そうだ、葉っぱを売ろう! 過疎の町、どん底からの再生    購入する際は、こちらから


徳島県の山奥にある過疎の町で、葉っぱを売るという奇抜なビジネスを成功に導いた営農指導員のビジネス戦記です。


著者の横石さんは、子どものころから農業に興味を持っていたわけではありません。県庁職員の父の勧めで、県庁に採用されやすい農業改良普及員という専門職をめざすことを決め、その後、農業高校、県立農業大学校で学んだのです。


卒業の年に県庁の農業改良普及員の採用がなかったことが上勝町と出会うきっかけになりました。停滞する農業をなんとかしよう、という町長の強い意向に引き寄せられ、横石さんは上勝町農協へ採用されます。


農家を一軒ずつあいさつして回る横石さんが驚いたのは、朝っぱらから一升瓶をさげ、農協や役場で酒を呑んでくだを巻いている男衆がいることでした。
女性は女性で、仕事もないし、カネもない。ひまを持てあました女性たちは、朝から晩まで嫁や誰かの悪口をずっと話しつづけていました。


「これはなんとかせなあかん」
農家が集まる機会をとらえ、横石さんがみんなに改革を訴えても、「お前は、よそから来たんでないか」「何もできへんのに、偉そうなことぬかすな」と反発されるだけでした。


なかなか認めてもらえないまま2年が過ぎようとしていたとき、突然の大寒波襲来で、ミカンの木が壊滅的打撃を受けてしまいました。


「なんとかせないかん、
 すぐに農家の現金収入になるものを作っていかないかん」


横石さんが必死で走り回る日々がはじまりました。


ミカンからユズやスダチに栽培の転換がはかられることになり、当面の現金収入のため青物野菜や切り干しイモ、夏ワケギ、分葱(わけねぎ)を栽培して売ります。
夏場しか収穫のない野菜に加え、シイタケの栽培を進めたことで、農家の仕事は一年中まわるようになりました。しかし、原木を扱うシイタケ栽培ができるのは40代までの若い農家です。
横石さんは、お年寄りや女の人にもできる仕事はないだろうかと四六時中考えるようになります。


ある日、大阪へ納品に行った帰り、『がんこ寿司』に立ち寄りました。斜め前のテーブルで食事していた若い女性3人組が目にとまり、その中の一人が料理についているモミジの葉っぱを喜んでいる場面に出会います。
おみやげに持ち帰ろうとする女性を見て、そんなに珍しいものかなあ、としげしげ自分の料理に添えられていたモミジの葉っぱを見つめていた横石さんにひらめくものがありました。


  「そうだ、葉っぱだ! 葉っぱがあった!
   葉っぱを売ろう!」


いまや、上勝町の特産になった「彩(いろどり)」というブランドが誕生した瞬間でした。


実際に市場に出荷してみると、単なる葉っぱの寄せ集めでは商品価値が低いことが分かりました。横石さんは、大きさや種類を揃え、使いやすい数量に小分けするなどして工夫し、自腹で料亭を食べ歩いて市場調査を行い、数々の困難を乗り越えて「彩」ブランドの葉っぱを特産に育てていきます。


農家の収入が増えたおかげで、朝から酒を呑んで愚痴をこぼしていた男衆が消え、朝から嫁や近所の悪口をおしゃべりしていた人たちもいなくなり、お年寄りも、診療所やデイサービスも行けなくなるほど忙しい日々を送るようになりました。


順調に生産量を伸ばしてきた上勝町ですが、その牽引車となって働いていた横石さんは、実は家に給料を入れないで、料亭の視察等につぎ込んでいました。
子どもも大きくなるし、これ以上、こんな生活は続けられない。熟慮した横石さんは、1996年2月に退職届けを提出します。


びっくりしたのは、農家の人たちです。
そんな苦労をかけていたとは、全く気づいていませんでした。


横石さんがいなくなったら、上勝町はダメになる。横石さんが辞めないように嘆願書を書こう!
代表者の発案で、たった一晩で177人全員の書名と捺印、そして「お願ひの言葉」が集まりました。


「上勝の灯を消さないで! お願ひします」
「横石君がいての上勝です。考へてみて下さい」


おばあちゃんが一生懸命に書いたのでしょう。旧字づかいの「お願ひの言葉」を読んでいて、思わず目頭が熱くなりました。


私は、北海道の農家の跡継ぎとして生まれましたが、酪農の将来に希望が持てず、農家を継ぐ道を捨ててしまいました。


過疎の町でも、やればできる! やり方ひとつで農業にだって、過疎地にだって道はひらける。実例をしめしてくれた横石さんの情熱に、頭が下がるばかりです。


いまや、町の人口より多くの人が視察に訪れるようになった上勝町の再生の物語。
ワクワクすること請け合いです。