著者:グループ・オブ・33 セス・ゴーディン/編 宝利桃子/訳
出版社:きこ書房 2008年1月刊 \1,470(税込) 247P
アメリカのビジネス書ベストセラー作家が、型破りな発想術72個を披露し、読者の固定観念をやぶってくれる、とてもオイシイ本です。
内容が「型破り」なのはもちろんですが、本書の成り立ちも一風変わっています。
編者のゴーディン氏は、マーケティング系の書籍を多数発行している売れっ子作家です。なかでもベストセラーとなった「『「紫の牛」を売れ!』には、読者からさまざまな反響が寄せられました。
もっとも目についたのが「秘訣を教えてほしい」というものです。しかし、読者の状況はさまざまですから、全員にピッタリの答えなど教えてあげられるわけがありません。
そこでゴーディン氏は、「ビジネス界のスーパースターに呼びかけて、成功するための持論を語ってもらおう」と考えました。
「収益は慈善団体に寄付する」という売れっ子作家の呼びかけに応じてくれた有名人33人が、原稿料無料で書いてくれたのが本書です。
日本でいえば、勝間和代さんが孫正義氏・御手洗冨士夫氏・三木谷浩史氏などの財界人や、笠原健治氏・近藤淳也氏などの起業家、森永卓郎氏・茂木健一郎氏・梅田望夫氏などの有名ウォッチャーに呼びかけるようなものでしょうか。
もうひとつ本書が型破りなのが、それほどの有名人に書いてもらった原稿を、誰がどの文章を書いたのか明かしていないことです。33人の「有名人」の名前とプロフィールが、冒頭に簡単に紹介されているだけです。
なぜそうしたかというと、誰が書いたか分からないので読むときに「頭の中を切り替えなくて済む」と、理由が書かれていました。
しかし、ゴーディン氏の意図は別のところにある、と私は考えます。
33人の宝石のようなアドバイスを、誰が書いたかという先入観で読んでほしくない。あなたの知らない人が書いた文章でも、あなたの「秘訣」にフィットする可能性がある。そのチャンスをみすみす見逃さないで欲しい。
本書の構成には、そんなゴーディン氏のメッセージが込められているに違いありません。
そんな編者の意図を推測しながら、実際に本文を開いてみると、個性的な33人が書いただけあって、一見バラバラな内容を語っているように見えます。
たとえば、39番目のメッセージの著者が、
自分が創造力がない、独創性がないと思いこむのは間違っている。
型破りなものを抑制する組織の性質に屈してしまうからだ(要旨)
と独創性をもっと発揮するように主張したと思ったら、41番目のメッセージで、
「現代のマーケティングはあまりにも複雑で、
マーケティング担当者は独創的であろうとするあまり、
自らの仕事や会社の業務を混乱させ、さらには自分の人生
までをも困難なものにしている」
と、独創性が不要であると説いています。
もちろん、同じ傾向の考えを持つ著者もいて、メッセージ48で、自社株の25%もの先行投資をして成功した会社の決断を褒め称えたあと、メッセージ55でも慎重な経営姿勢が事業拡大のチャンスを逃した例をあげて「失敗は、早く安くしてほうが良い」とアドバイスしています。
全体を通じて敢えて共通点をあげるとすれば、一つひとつの内容が刺激的で、
自分自身の考えを突き詰め、
常識に反することを恐れずに行動すれば、
きっと輝かしい成果をあげられる
という励ましが込められていることでしょうか。
刺激的すぎて同意できないメッセージも、納得して同意できるメッセージも、両方とも常識を破るきっかけを読者に与えてくれることは間違いありません。