不器用


著者:野田 聖子  出版社:朝日新聞社  2007年12月刊  \1,365(税込)  206P


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本書の帯に、次のキャッチコピーが書かれています。

  『私は、産みたい』から3年。
  私はまた、ひとりになった―。
  流産、郵政造反、「刺客」との闘い、離婚…。
  再び注目の国会議員が語る真実。


『私は、産みたい』を読んだのは2年前のことでした。
政治家が自身の不妊治療や妊娠・流産の体験について本を出すというのは、前代未聞です。批判も多かったことでしょうが、著名人が不妊治療の実態を明かしたことによって、同じ悩みを持つ人は勇気付けられたことと思います。
しかし、文章の行間に“勝ち組”の一人である野田聖子、自分の力だけで全てを解決してきたと自負できる強い人を見てしまった私は、すなおに賛嘆できませんでした。「拝啓 野田聖子様」ではじまるやや批判めいた感想をかきあげ、野田氏のホームページに載っていたメールアドレスに送ったことがあります。(文面はこちらを参照


もちろん返信メールを受け取ることはありませんでしたが、その後、野田議員の活動にいっそう注目するようになりました。平日の昼間にたまたま見た国会中継で、小泉首相(当時)相手に郵政民営化の反対意見を述べているのを見て、その反骨精神に関心したこともあります。
ご存じと思いますが、郵政民営化に反対したことで自民党を除名になり、そのあとの衆議院選挙では“刺客”候補者を送りこまれました。自力で当選したあと無所属議員としての“浪人”生活や離婚も経験します。


本書は、前著を出してからの3年間のできごとを中心に、政治家野田聖子誕生のいきさつや、今後の抱負も明らかにした語りおろしです。


前著より詳しく不妊治療に言及していますし、鶴保庸介議員との離婚のいきさつや鶴保氏の反論もきちんと載せていますので、ワイドショー的興味で読んだ人も満足できる内容です。


私が注目したのは、はじめての衆議院選挙に落選した後の候補者生活と、郵政にのめり込むきっかけ、それと民法改正に向けた意欲の強さです。


最年少県議会議員から衆議院選挙に挑んだものの、落選の憂き目をみた後、野田氏は来る日も来る日も、戸別訪問の日々を送りました。運転手一人、介添え一人をつれ、朝8時から夜6時まで名簿を頼りに1軒ずつ回って歩く。いいかげんな後援会名簿には、共産党とか社会党のポスターを貼っている家もあって、塩を撒かれたり説教されたりもしました。夜は夜で支援者との飲み会に出席し、胸を触られたりして悔しい思いもたくさん経験します。


橋本総理との会話で郵政にのめり込むきっかけを得たことは、本書をお読みいただくとして、もう一つ、野田氏の民法改正についての考えを紹介しておきます。
「日本の法律は、いまだにお上が国民をコントロールするためのテキストみたいな性格が強い」と野田氏は考えます。成熟した国家として、主権者である国民が自分の人生をいろいろな選択肢から選べる方向に持っていかなければならない。そのために民法を改正したい。なかでも選択的夫婦別姓制度をぜひ導入したい。それが、あと10年と決めた自分の政治生命の目標とのことです。


現役政治家の本が選挙に向けた宣伝であることは間違いありません。まして、いつ衆議院が解散してもおかしくない状況ですので、本書を政治的パフォーマンスと切って捨てることもできるでしょう。
しかし、私は本書の中にスッピンの野田聖子が見えました。かなり赤裸々に自身を語っていると感じます。それが計算されたものだったとしても、それはそれで、たくましくなった野田聖子の今後の可能性に期待することにしましょう。