齋藤孝のざっくり!日本史


副題:「すごいよ!ポイント」で本当の面白さが見えてくる
著者:齋藤孝  出版社:祥伝社  2007年12月刊  \1,575(税込)  300P


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齋藤孝氏は『声に出して読みたい日本語』で売れっ子になり、その後、量産を続けている作家です。
私も『原稿用紙10枚を書く力』『座右のゲーテ』『過剰な人』の書評を書き、他にも『読書力』『コメント力』『孤独のチカラ』『段取り力』『喫茶店で2時間もたない男とはつきあうな!』に手を伸ばしました。


売れっ子作家の中には、作品の内容を薄くして粗製濫造している人もいますが、齋藤さんは違います。私が手にした本には、いつも濃厚なメッセージが込められています。


今回、齋藤さんは「日本史」を取り上げました。


齋藤さんも、日本史が単なる暗記科目に思えてしまい、不得意科目になってしまったことがあります。そのとき、勉強法を工夫して「一度図にまとめてから文章にする」という方法をためしてみたところ、成績がぐんぐん上がり、歴史の勉強がとてもおもしろくなりました。


この経験から齋藤さんが見つけたのが、
  「文脈をみつけていくこと」こそが、歴史の見方だ
ということです。
そして、「すごい」と思ったことのポイントを3つずつ「すごいよ!シート」にまとめることを本書で提案し、実例を見せてくれています。


題材となっているのは、廃藩置県、万葉仮名、大化の改新、仏教伝来、三世一身の法、鎖国、殖産興業、占領の8つ。それぞれ、当時の歴史的背景から解説・解釈し、現代にも通用する教訓や考え方を抽出しています。


驚いたのは、解説の論点が、8つともはじめて聞く内容だったことでした。まだまだ齋藤さんのユニークなアイデアは枯渇していないようです。


たとえば、第5章では三世一身の法とバブル崩壊の関連を解説し、私たちの心情がいかに土地に支配されているかを示しています。


齋藤さんが結婚後に引っ越し先を探していたとき、アパートの大家に「貸せない」と断られたことがありました。そのとき感じたのが、地方出身者が東京に出てきても、家を持とうと思ったら一生がそれだけで終わってしまうほど大変だ、ということ。対照的に、東京で生まれ育って親が家を持っている人は、家で苦労することはありません。同じ収入でもずっと豊かな暮らしができます。


これは不平等です。


飛鳥時代は、誰もが土地を与えられる公地公民を理想としていました。「三世一身の法」や「墾田永年私財法」が発布され、荘園制という大地主制度が生まれたあと、太閤検地や明治の地租改正、GHQによる昭和の農地解放など、平等を実現しようとした施策もありましたが、しばらくすると、また大地主が甘い汁を吸う世の中になりました。


この歴史的事実から、齋藤さんは次のように考えました。


土地というのは放っておくと集中してしまうので、集中して不平等が生じると、大きな力がそれをチャラにする。しばらくたつと集中し、不平等が生じ、またチャラにする。
この繰り返しが、土地所有制度の大きな流れとなっている、とのこと。
歴史は循環するのです。


また、第4章では、仏教伝来と日本人の精神を並べて論じます。


齋藤さんの考察によると、日本文化の根底には禅が流れており、日本古来の所作の中には、瞑想的なものが自然と溶けこんでいます。
ですから、現代生活を送っていても、日本人の心に禅マインドを蘇えらせることが大切になります。


たとえば、コーヒー一杯のむ場合も、コーヒーがくるまで姿勢を正して待つ、飲む前に丹田呼吸をする、ブラックでコーヒー本来の風味を味わった後ミルクを入れるなど、「これは禅なんだ」と認識していくことです。


さすが『声に出す日本語』の著者です。NHK教育テレビ『にほんごであそぼ』の監修者も担当している齋藤孝の面目躍如というところでしょう。


歴史が苦手な人向けに書いてありますが、歴史に苦手意識のない私も楽しんで読むことができました。


やるなあ、齋藤センセ。