夕張 あの頃の炭都


著者:安藤文雄ほか  出版社:河出書房新社  2007年8月刊  \2,520(税込)  159P


夕張―あの頃の炭都    購入する際は、こちらから


明治のなかばに石炭鉱が発見されて急速に栄えた夕張は、かつて「炭都」と呼ばれていた。黒ダイヤに引き寄せられ、最盛期には12万の人々が暮らしていたこの街も、石炭から石油にエネルギー需要が移り、ヤマが閉山するなかで過疎にみまわれる。
財政再建団体へ転落した夕張だが、にぎやかだったあの頃を思い出そう。そうすれば、きっと元気を取り戻す、との思いで発刊されたのが本書。地元で写真を撮り続けてきた有志が所蔵する写真を、「子どもの暮らし」「炭住と祭り」「炭都盛衰」など6つの章に分けて披露している。


北海道生まれの僕にとって、かつて夕張は、希望に満ちた土地だった。農家がうまく行かなくなっても夕張に行けば仕事があるから心配ない、と思わせてくれた。
ちょうどそれは、『怒りの葡萄』で、「あそこは常夏の楽園だ。あそこにいけば、きっと食える」と信じる人を吸い寄せたカリフォルニアのような存在だった。


怒りの葡萄』に登場する大恐慌下のカリフォルニアは人々を絶望の淵に追い込んだが、本書に写る夕張のにぎわいは、ここで人々が幸せに暮らしていたことを証明している。


会社が用意してくれた真新しい「炭住」の前で、子どもたちは楽しそうに走り回っている。繁華街では、デパートや映画館の前に人々が長い列をつくる。一日の仕事を終えた男たちが、ヤマの無料風呂で、たくましい肉体をさらしながら、炭塵を洗い流している。


すべてのヤマが閉山した今、人口は激減し、残った人々も財政再建団体に転落した夕張を支えていかなければならない。
元気を取り戻そう、という著者たちの意図とうらはらに、厳冬の北海道のつらさを思い出す。