10ドルだって大金だ


著者:ジャック・リッチー著 藤村裕美ほか訳
出版社:河出書房新社  2006年10月刊  \2,100(税込)  296P


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結婚して三か月、そろそろ、妻を殺す頃合いだ。
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びっくりさせてすみません。本書は、妻殺しを企てる短編ではじまるミステリー短編集です。ミステリーに殺人や犯罪はつきものですが、それにしても最初から刺激的な言葉ではじまっています。


資産家の娘に近づき、まんまと結婚を果たした主人公は、財産を自分のものにするために、次の行動を起こします。むだづかいをする家政婦をクビにし、乗りもしない車を処分しておかかえ運転手もクビにする。
男は、いずれ自分に転がり込んでくるはずの財産を減らさないよう、屋敷のムダを削っていきますが、妻は不満をもらしたりしません。むしろ、つきあいづらい使用人を解雇してくれた夫に感謝します。


長いこと妻を脅迫してカネを巻き上げていたクズ野郎を片付け、そのクズ野郎に知恵を授けていた顧問弁護士を亡き者にし、いよいよ機は熟しました。
妻をかたづける最良の場所をさがして大自然の中へ出たものの、二人が乗ったカヌーの転覆で急流に放り出された男は……。


このあとの意外な結末の他、本書のどの短編も、気の利いたストーリー展開と予想を裏切る結末が用意されています。


実はこの本、昨年5月15日のブログで取りあげた『クライム・マシン』の作者ジャック・リッチーの2冊目の邦訳本です。日本であまり知られていない作家の本をまた手にしたのは、一冊目の印象があまりにも強烈だったからです。
結末の妙としかいいようのない結末には感嘆させられました。映画『スティング』のドンデン返しばかりを集めた本、といっても言い過ぎではありません。


2冊目の本書でもひねりの効いた結末は健在で、さらにうれしいのはどの作品にも「外れ」がないことです。
巻末の解説で知ったことですが、著者のリッチーはアメリカのミステリー雑誌に30年ものあいだ毎月のように書き続けた作家です。コンスタントに書き続けるということは、それだけ粒がそろっているということです。その粒のそろった短編を生涯に350も書いたリッチーですが、生きている間に出版した短編集はたった1冊しかありませんでした。
日本でも100編以上の翻訳がミステリー雑誌に載りましたが、単行本にまとめられたのは、まだ本書で2冊目とのこと。


1冊目が『このミステリーがすごい!』の1位に選ばれ、審査員に高く評価されているそうですから、もっと有名になる前に読んでおくと自慢できるかもしれませんよ。