著者:秋田 洋和 出版社:PHP文庫 2007年10月刊 \500(税込) 214P
教育関係の本というのは、著者が偉そうに自説を述べているものが多いのですが、めずらしく共感しながら読める本に出会いました。タイトルからは、『国家の品格』の説教調を連想してしまいますが、著者の姿勢はとても謙虚です。
先に結びのことばを紹介しておきましょう。
私ができることは、自分が関わった生徒やこどもたちだけは、
ひと味違う大学生に、ひと味違う大人になってほしいと願いながら、
無形の力を育てようと日々苦闘することだけなのです。
著者の秋田さんは、高校受験・中学受験生に数学を15年以上おしえている進学塾講師です。「中学校へ進出した塾講師」として、2005年から中学でも授業を行うようになりました。
その著者が「子どもの品格」と呼んでいるのは、
(1)自分で判断できること
(2)自分自身にブレーキをかける自己管理ができること
の2つの能力を持つことです。
この2つは、受験生として大切なだけでなく、自立した大人になるためにとても重要なことだそうです。
子どもたちにこの品格を身につけてもらうため、塾の指導に日夜はげんでいる著者から見ると、子どもの自立を妨げている教師や親の姿が反面教師として目に入ってきます。
たとえば、一生懸命な先生ほど、子どもたちに具体的勉強方法を与え、子どもといっしょに頑張ってしまう「伴奏型」が多いようです。この先生には指導者としての達成感は残るでしょう。しかしこのスタイルを続けると、子どもたちは自分自身で考えない習慣ができてしまいます。
また、子育てに熱心な親ほど、いつまでも子どもを一人前あつかいせず、過保護・過干渉をしてしまう。
何より困るのが、自分が受験生だった頃の古い常識を、現代に生きる我が子に当てはめようとすることです。昔の運動部の監督が、練習中に水を一切飲ませなかったのが現在では非科学的と呼ばれるようになったように、ウサギ跳びの効用が否定されたように、教育の現場でも、かつて当たり前に行われていたことが、実は時代遅れになっていることが多いといいます。
ここで本書がユニークなのは、あえて秋田さんが自分の家庭を反面教師として紹介していることです。
秋田さんの息子が成績トップになったことを喜んで報告したときのこと。お母さん(秋田さんの妻)は、「またトップになるように、もっと頑張りなさい」と言いました。
しかし、秋田さんの長年の経験では、これは子どもの意欲を失わせてしまう典型的な例です。
こういうことを言う親は、「勉強は、イヤなことを我慢してやる能力」という古い常識を信じている人なのです。
自主性重視、モチベーション重視の秋田さんは、次のように言いました。
「次は、前回の2/3の勉強時間で1位を目指せ」
もっと頑張れ、もっと頑張れ、では、すぐに限界に達してしまいます。そうではなく、効率を上げてもっと少ない労力で同じ成果を上げるにはどうしたら良いか。自分で考えて工夫するなかで、自主的に学習する能力が身についてくる。
それが秋田さんの「品格の育て方」です。
すぐに口を出してしまう親には耳の痛い本でした。