翻訳者はウソをつく!


著者:福光 潤  出版社:青春出版社(青春新書)  2007年10月刊  \767(税込)  185P


翻訳者はウソをつく! (青春新書INTELLIGENCE 184)    購入する際は、こちらから


えっ、翻訳者って嘘つきなの? とつい手にとってしまう刺激的なタイトルです。
帯にも「天才は99%の努力…」は誤訳だった!? という疑惑が書かれているように、文章や言葉を別の国のことばに置き換えるのは難しいことです。ひとつの言葉に複数の意味があったり、文化的背景が違ったりしますので、決して横書きを縦書きにすれば済むわけではありません。
時には誤解を与えたり、不満に思われたりすることもあるかもしれないけど、翻訳者は一生懸命やっているんですよ、と書かれたのが本書。
プロの翻訳者が「翻訳者のウソつき疑惑を晴らそう!」と書き上げました。


さすが翻訳者らしく、著者の福光さんのプロフィールには英検1級、仏検3級と書いてあります。しかし、福光さんが使えるのが日本語、英語、フランス語3ヶ国語と思ったら大間違いです。
私が発見しただけでも、8ヶ国語以上を自在にあやつります。
その他の言語を紹介しましょう。

  • 関西弁(本書12ページ)

  友:翻訳者ってことは、翻訳してんの?
  私:そやで。

  「こんどウナギとってきてや」
  「それは淡水魚じゃけぇ、自分で川行ってとってこいや!」

  • 2チャンネル語(本書4ページ)

  夜中に自画自賛した美文(キタ─\(゜∀゜)/─!!)が、
  朝起きると(ショボ─(´・ω・`)─ン…)に見えたり…。

  • いまどきのワカモノ語(本書22ページ)

  「きゃー、こんなふうになりたいわ!」
  「うぉー、翻訳やりてー!」

  • ダジャレ語(本書65ページ、他随所で)

  ダジャレに気づくのにひと苦労、ダジャレを再現するのにふた苦労。
  そんな翻訳ができるのはダレジャ!?


おまけに、ビリージョエルにあこがれて、服装規定もない会社にスーツ姿で通っている福光さんは、「シンガーソングライター語」も話すらしい。音楽サイト MySpace Japan のジュン・フクミツさんのページは、Folk / Acoustic / J-POP に分類してあります。実際に高音の美声を聞いてみると、ビリージョエルというよりは、「パセリ・セージ・ローズマリー・アンド・タイム」の頃のサイモンとガーファンクルに近いサウンドに聞こえましたよ。
(年がばれる……って、あたしゃ年齢公開してますからーー!!)


こんなバイリンガル、もといオクトリンガルな著者がサービス精神たっぷりに教えてくれる翻訳にまつわるあれこれです。
面白いにきまってます。
ふ〜ん。へぇ〜。と感心するトリビアがゴマンと載っていました。
(……すいません。ウソをつきました。五万は載ってません。200個くらいです)


私の書評はネタバラシなしでお送りしていますが、トリビアネタが200個もあるので、今回は2、3個紹介させてもらいましょう。


〔私が「へぇ〜」と思ったトリビア〕――その1
    テレビ番組名「トリビアの泉」は、
    「トレビの泉」をもじっていた。
  ……えー、たった12へぇですか。では次。


〔私が「へぇ〜」と思ったトリビア〕――その2
    「トリビアの泉」をアメリカで放送したとき、
    「へぇ」は「Hey!」と翻訳された。
  福光さんの解説によると、英語の「Hey」には「驚き」の意味があり、
  辞書にも1番目の定義に「へぇ」が載っているそうです。
  ……おう、今度は78へぇですね。


〔私が「へぇ〜」と思ったトリビア〕――その3
    ビートルズの曲「Norwegian Wood」の翻訳は、
    「ノルウェーの森」ではなく、「ノルウェーの木材」が正しい。
  私は、ええっ! と驚きましたよ。
  ……ほぉ、それでも63へぇですか。この曲を知らない人が多いのかな。


読んでいるうちに、「よくこんなに知ってるなぁ」と感心してしまいます。でも、「そりゃ翻訳者にはかなうわけないしー」と卑下することはありません。
ふつうに日本語を使う人なら、素晴らしい3種の神器と豊富なボキャブラリーが備わっていることを福光さんは教えてくれます。


福光さんのいう3種の神器とは、ひらがな・カタカナ・漢字の3つの表記方法です。
わずか26文字のアルファベットに、せいぜいアラビア数字と記号を組み合わせるくらいしかバリエーションのない英語とちがい、日本語は豊富な表現力を持っているのです。


すごいでしょ。


もうひとつ、豊富なボキャブラリーとは、英語で「アイ」、フランス語で「ジュ」、ドイツ語で「イッヒ」と、それぞれの言葉に一つしか存在していない一人称の代名詞のこと。
日本語では、「私、僕、俺、わし、あたい、自分、うち、小生、おいどん……」とたくさんの呼び方があって、自分をどう呼んでいるかを聞いただけで、その人の仕事や人間像が想像できてしまいます。
「私め」なら召使、「あたくし」ならセレブ女性、「本官」なら警官、「拙者」ならお侍さん…。


こんなに豊かな言葉を持っているなら、無理して英語なんか使えるようにならなくても人生たのしいかもしれませんよ。外国語の本や映画の内容をしりたかったら、福光さんの同業者が翻訳してくれますから。