著者:佐野 眞一 出版社:プレジデント社 2001年2月刊 \1,890(税込) 461P
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出版不況といわれ続けるなか、出版業界はいったいどうなっていくのか、という視点で関係者をたずねまわり、「本」をめぐる問題点、本の将来についてルポルタージュする一書です。
本書の元ネタは、プレジデント誌に「『本』は届いているか」のタイトルで連載した8回分の原稿です。分量が5倍になるまで書き加えた行為は、加筆というより「ほぼ完全な書き下ろし」と著者本人が言うほどの労作業でした。その思い入れが、“本を殺す”なんていうぶっそうなタイトルに反映しています。
「原稿を書いた著者」から「本を読む読者」の間には、さまざまな本をめぐる関係者が存在します。編集者、出版社、印刷会社、広告会社、書評家、取次、書店、図書館。このほか電子出版のように、いくつかの役割を兼ねる新しい登場人物もあらわれました。
それぞれ独自の役割を持つ一方で、自らの利害を追求するあまり、おもしろい本を読者に届けるという出版の原点がおろそかになっているのではないか。かつての「本」が持っていた輝きをいまこそ取り戻すべきではないのか。
関係者のインタビューを続けながら、著者の佐野氏の胸にわき上がってくるのは、本は商品であり文化なのだ、という思いでした。
本を出したばかりの私にとって、出版業界のしくみ、業界がかかえる問題点の解説は、とても勉強になりました。
なかでも、書評家のはしくれの私には、「第7章 そして『書評』も、消費されていく」は、考えさせられる内容でした。
佐野氏の指摘で、グサリと胸にささったのが、多くの書評が本を勝手に勧めておいて、あとはほったらかしにしているという指摘です。
入手困難な本を勧めっぱなしにすると、読者にフラストレーションがたまるばかり。入手方法を提示し、購買手段をおしえてあげてはじめて書評の責任を果たしたといえるのではないか、というのです。
このブログでも、今年の4月からアマゾンのインスタントストアへのリンクを表示しはじめました。こうすれば、たしかに取り上げた本を購入しやすくなるわけですが、本書を読んでいて、まだまだ改良の余地があることに思い至りました。
それは、リンク先が私が読んだ書籍と全く同じものになっていることです。
たとえば、今回とりあげた本は2001年出版の単行本です。一般的な単行本は出版後1年も経つと店頭から姿を消してしまいますからアマゾンでも在庫切れになる可能性が高くなります。同じ内容で文庫が出ているのであれば、そちらのほうが価格も安く、入手しやすいかもしれません。
ですから、自分が読んだ単行本にリンクするだけでなく、文庫本へのリンクもいっしょに示したほうがより親切でしょう。
気づいたからには、すぐに実行! 今回は、単行本のリンクと別に文庫本上巻、文庫本下巻へのリンクもお伝えしています。私が読んだ単行本でも文庫本でも、気に入った方を活用ください。
話を本の内容に戻します。
佐野氏の指摘で、逆に「よくぞ言ってくれた!」と感じたのは、書評の姿勢についての次の意見です。
かつての「日本読書新聞」に代表される独善的でペダンチックな書評が
王道とは毛頭思わない。むしろあの書評紙に頻繁に登場した評論家たち
の、仲間うちにしか通じない左翼的言辞をたっぷりとまぶした書評が、
書評の世界をやせ細らせ、読者を書評の世界から引きはなす大きな原因
をつくったと、私は思っている。
以前このブログにも書きましたが、私が書評を書いて本を勧める基本姿勢は、次のように決めています。
自分はたいした人間じゃありませんが、
こんな面白い本を読みましたから、よかったら読んでくださいね〜〜
この姿勢を貫くために、ブログで書評を書きはじめた当初「だ体」「である体」だった文体を「です・ます体」に変えました。「である体」を使うと、書いている本人もだんだんエラそうな気分になってしまい、上から見下して物を言うようになることをおそれたからです。
この作戦は、とってもうまくいきました。文章が丁寧になり、気持ちもサービス精神旺盛になり、何より、長く書き続ける源泉になりました。余談ついでに、「今後とも、応援してくださいね」と申しあげます。よろしくお願いしますね。
さて、先日(8月17日)の朝日新聞朝刊3面で「出版 絶てるか負の連鎖」という見出しで、出版業界の苦境と新しい試みを紹介していました。
記事によると本書が出版された2001年以降も本の売上減傾向は変わらず、反比例するかのように出版点数が増えつづけています。昨年の書籍点数はなんと8万点を超えたそうで、単純平均すると1日あたり220冊。
うわっ!!
私の年間読書量より1日の出版点数がはるかに多いじゃないですか!
私の『泣いて笑ってホッとして…』を置いてくれる店、買ってくれる人は、いったいどのくらいいるのかなあ。
8月29日の出版記念セミナー・パーティで出版社の社長にお会いするので、売れ行きを聞いてみましょう。
ちょっと恐い……。