新聞社


副題:破綻したビジネスモデル
著者:河内 孝  出版社:新潮新書  2007年3月刊  \735(税込)  220P


新聞社―破綻したビジネスモデル (新潮新書)    購入する際は、こちらから



インテリが作ってヤクザが売る。それが日本の新聞。……と聞いたことがあります。記事の内容は高尚なことを書いていても、部数拡張の販売方法はドロ臭い手法が踏襲されている、ということを指しているのです。


本書の著者は、そのインテリ部署の編集局出身で、経営幹部になってからヤクザ部署(販売部)の改革を打ち出したものの、改革を果たせずに退職した元毎日新聞社員です。
本書では、新聞業界の危機的状況をあらためて分析し、業界を刷新するためのあっと驚く新機軸を発案しています。


本書にも引用されている『ネットは新聞を殺すのか』をはじめ、ここ数年新聞の危機を訴える書物が多数出版されています。
インターネットの普及に従って、宅配新聞を読むメリットが失われていくのではないか、という説はよく聞きますが、本書で挙げている新聞の危機の理由は、もっと経営的な側面です。河内氏は、「消費税率アップ」と「再販制度見直し」の2点が、いま目の前の危機だと言います。どちらも、購読者の大量離脱、大量移動を伴うことが予想され、業界地図がいっぺんに塗り変わるかもしれないのです。


現在の新聞購読者のうち8割は長期購読者で、残り2割が拡張員の持ってくる拡販用の景品を求めて各社を移動しています。浮気な読者をつなぎ止める景品の費用を長期購読者が負担しているようないびつな構図は、まるで携帯電話の機種変更のよう。しかし、こうでもしないと部数が減り続けるという悪循環の中に新聞業界は置かれています。


こんないっぱいいっぱいの状況に「消費税率アップ」や「再販制度見直し」の大波が押し寄せてきたら、業界は大混乱になることは間違いありません。
経営危機に陥る新聞社が続出し、業界に再編の嵐が吹き荒れます。毎日新聞産経新聞も例外ではなく、何らかの形で朝日新聞、読売新聞の大手2社に吸収されたとしても、大規模な新聞離れが起きることは間違いない、と著者は予言します。


テレビ業界も新聞業界も多数のメディア企業がしのぎをけずり、多様な言論が保証されていることが望ましい。そのために、今のうちにやっておくべき方策とは……。


社内改革に頓挫し、一敗地にまみれた著者です。
敗残の将が後輩に繰り言を述べているだけに終わるのか、それとも、本書が著者の復活の狼煙となるのか。


いずれにしても、一読に値する内容の濃い一書でした。


本書を読んでいて、自分の経験で思い当たる個所が2つありました。


ひとつは新聞拡張について。
独身のころ、しつこい新聞拡張員の訪問を受けたことがあります。
いま思えば、玄関に入れたのが間違いだったのですが、新聞を変えるつもりのないことを伝えてもなかなか帰ってくれません。そのうち洗剤を置いて帰ろうとしたので、既成事実を作られては大変と思って前より真剣に断ったところ、急に怒り出しました。
こんなに時間をかけさせてサービス品まで出させておいて、どういうつもりだ! というのです。


最後は脅迫まがいの捨てゼリフを残して帰っていったのですが、一瞬、襲われた場合に備えて、何か手に取る武器を探してしまったほどです。インターホンのないアパートでしたので、以後は、必ずドアチェーンをしてからチャイムに応えるようになりました。
ヤクザが売る、というのは本当なんだな。と実感したものです。


もう一つは、読者の新聞離れです。
私自身、去年の今ごろは新聞を毎朝出勤前に読んでいましたが、今は読む習慣がなくなりました。週末になって、たまった新聞の山に風通しをすることもあるのですが、それも少なくなってきました。
きっかけは、ポッドキャスティング日経新聞の朝刊ダイジェスト番組『聴く日経』を聞くようになったことです。もともとワイドショー的な社会面を読み飛ばしていたので、他に未練が残るのは、4コマ漫画くらいのものです。営業職ではありませんので、お客様との話のきっかけに必要ということもありません。
新聞を読まなくても困らないのです。


30年間も新聞を読む習慣を続けてきました。最初は、何か必修科目を放り出したままにしているような後ろめたさを感じた時期もありましたが、今はそれもなくなりました。
我が家では、新聞はすっかりカミさんのものになってしまいました。もしカミさんが新聞に興味を示さないタイプだったら、もうとっくに解約していたかもしれません。


自身の実例を見ても、新聞離れは深刻です。
さあ、どうなる新聞業界。