夜回り先生のねがい


著者:水谷修  出版社:サンクチュアリ・パブリッシング
2007年5月刊  \1,470(税込)  203P


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夜回り先生」こと水谷修さんの4冊目の本です。


水谷先生は、夜間高校の教師でした。夜の繁華街をパトロールするようになったのは、教え子たちが非行に走る機会を少しでも少なくしようという思いからでした。
体を張って悪い大人と戦う水谷先生は、暴力団に刺されたり、指をつぶされたりすることもありました。
そんな夜回り先生から子どもたちへの心の呼びかけが込められた『夜回り先生』が出版されると、電話やメールが殺到しました。


出版後も水谷先生は夜回りを続けます。また、日本中を回って講演で呼びかけ、子どもたちからの電話を受け、子どもたちからのメールに返事を書き続けます。
水谷先生に悩みを打ち明けた子どもたちは、10万人を超えました。


しかし、子どもの個々の事情はさまざまで、とうとう死んでしまった少年や少女もいます。11人は自殺、17人は事故または病死、ひとりは殺されてしまったといいます。
子どもを傷つけたり暴力をふるったりする親と戦い、子どもたちを食い物にする悪い大人と戦ってきた水谷先生は、あるとき、大人たちもつらい毎日を送っていることに気づきました。


会社で上司に「なにやってるんだ」と怒鳴られた父親が、家に帰って妻に当たり散らす。夫に怒鳴られた妻が、今度は子どもにあたる。傷ついた子どもが夜の街に出かけると、そのことで両親がケンカをする。自分が原因でケンカしている両親を見て、ますます子どもは家にいられない。
憎しみが連鎖して、家族がお互いを傷つけあってしまう悲劇に直面し、水谷先生はいつも子どもの味方をして大人を攻撃してきました。


本当にひどい大人は別として、多くの大人たちが子どもを傷つけてしまったことに苦しみ、悩み、心の底ではやさしい大人になりたいと願っている。


大人たちも苦しんでいるんだ。だから許してやって欲しい。


夜回り先生が大人に向ける目が変わります。
こうして、水谷先生の4冊目の本には、苦しんでいる大人がたくさん登場することになりました。


水谷先生が実際に経験したひとつ一つの物語は、暗く、悲しい物語です。
   家庭内暴力、心中未遂、援助交際、刑務所、リストカット
   貧乏、いじめ、売春、……
それだけに、「私、生きててよかった」と子どもがつぶやく場面や、勇気をもって過去と決別した子どもたちが登場すると、少しだけ救われた気持ちが湧いてきます。


数々の修羅場をくぐってきた水谷先生です。
心の準備をしてから読むことをお勧めします。


さて、本書のプロローグに、次のような一文がありました。
  私は夜回りを死ぬまで続けるつもりです。
  しかしこの本は、「夜回り先生」の最後の一冊にしたいと思います。


夜回りは続ける。だけど本を書くのは、これで最後にする、というのは何を意味しているのでしょう。
子どもたちの側に立ってきた自分が大人の気持ちも考えるようになったから、だから、これ以上大人を糾弾しない、という意味でしょうか。
それとも、これ以上、マスコミに登場するのを良しとしなくなったのでしょうか。


個人的な意見ですが、私には、もう一つ別な理由があるように思います。


本書には書かれていませんが、水谷先生は、ガンに侵されているそうです。(http://tinyurl.com/5e2ff のインタビューにも書いてありました)


夜回りは死ぬまで続ける。
その死がいつやってくるか分からない。
だから、もう次の本を書く約束はできないし、もう本を書くことに時間を割くつもりもない。


そういう意味なのかもしれません。


水谷先生の壮絶な生き方は、真似しようとも思いませんし、真似しようとしてできるものでもありません。
少しでも長生きして、一人でも多くの子どもの話を聞く時間が持てることを祈るばかりです。