副題:後ろ指さされずに成功する新・ビジネス読本
著者:マリアン・M.ジェニングス 山田真哉/日本版監修 野津智子/訳 出版社:アスコム 2006年11月刊 \1,029(税込) 159P
全米で話題騒然の「世界初のコンプライアンス寓話小説」という売り文句で良く売れているようです。
この本の良いところは、二つあります。
ひとつは、短くてすぐ読み終わること。
もうひとつは、読み終わったあと、「正直に生きる」ということについて、いろいろ考えさせられることです。
すばやく読めて、「読み終わったあと、余韻が残る」という、この素晴らしい本を紹介しない手はありません。今ごろこの本を紹介しても……、とも思いましたが、敢えて取り上げることにしました。
もう読み終わっている方は、ゴメンナサイ。
主人公のエドという会社経営者は、かつて気弱な少年でした。あるとき、プーカという身長190センチの白い大ウサギが現われ、エドが何か心にやましいことをしようとすると、大きな足で蹴飛ばすようになりました。
プーカは、エド以外の人間の目には見えません。ふだんはゴディバのアイスクリームと任天堂のテレビゲームさえあればご機嫌にしているのに、エドがちょっとでも悪いことをすると、たちまち凶暴なウサギに変身します。
嘘を許せないウサギ、正しくあることや道義心を愛するウサギのプーカに付きまとわれ、エドは要領の悪い人生を送ることになりました。
まわりの友人が適当にカンニングしながら進学や就職に成功するなか、時間のかかるレポートをバカ正直にまとめたりするエドの愚直さは誰にも評価されず、大学卒業後も道路の料金所係のアルバイトを続けています。
やがて、不正な行動に麻痺した友人達がインサイダー取引等の犯罪者として糾弾されるなか、やっとエドの正直さが評価され、コンプライアンスのコンサルタント事業を成功させるのでした。
めでたし、めでたし。……という内容です。
コンプライアンスという言葉がビジネスの世界で流行しています。
ちょうど2年前に「個人情報保護」が時代のキーワードになり、あっちでもこっちでも、「名簿を紛失した」と言ってはマスコミから袋だたきにあう会社が続出したことを思い出します。
もちろん、個人情報が振り込め詐欺に利用されるのは問題ですが、おかげで、名簿配布や連絡網の配布に神経質になる例も見うけます。自治会や学校のコミュニケーションがますます狭くなってしまいました。
企業の対応も、「規則は作ったから、破ったら社員の責任だもんねー」という経営者が責任逃れするためだけの対応が多いようです。
日本のコンプライアンスは「法令遵守」と呼ばれていますから、「法律さえ守ればいいんでしょ」という態度で、何かあったときに、「社員には厳命していたのに、守ってくれなかった」という言い訳を準備する会社が多くなることでしょう。
上っ面のコンプライアンスではなく、その根本精神を考えさせられる、という意味で、本書はタイムリーでした。
本当は、アメリカからの輸入ではなく、「お天道様に恥ずかしくないように」という精神で書いた日本の良書が欲しいなぁ。