墨攻


著者:酒見 賢一  出版社:新潮文庫  1994年7月刊  \380(税込)  170P


墨攻 (新潮文庫)


日中韓合作の「墨攻」という映画が公開中です。
10年以上前に「ビッグコミック」で同名の劇画作品を連載していたのを記憶しています。原作に興味はありますが、約10巻のコミックを手に入れるのは大ごとなので、あきらめていました。


ところが、マンガになる前に同名の小説が発表されていて、そっちが原作らしいと聞きました。
調べてみると、最初に『墨攻』が出版されたのは1991年。翌1992年には中島敦記念賞を受賞し、1994年に文庫になっています。
今回は、この文庫版を読んでみました。


内容は、中国の戦国時代を舞台にした、戦争物語。
主人公の革離は墨子の教えを伝える墨子教団の幹部です。


この物語を理解するには墨子の思想理解が必要ですが、酒見氏の小説では、物語の流れを止めずに墨子について説明していて、とても読みやすく理解しやすい構成になっています。研ぎ澄ましたような文章表現と共に、プロの仕事を感じさせる仕上がりでした。


私は物語の流れを止めずにうまく説明できないので、先に墨子の思想について本書で得た知識を先に説明します。
墨子は「非攻(攻めない)」ことを思想の中心にしており、博愛主義者であり奉仕者でもありました。その思想を貫くためには相手からの侵略に徹底抗戦する必要があり、墨子教団は、防御戦を得意とする戦闘集団という側面も持っていたといいます。


ある時、梁という国の小さな城が大国趙に攻められそうになり、墨子教団に助けを求めにきます。墨子教団の責任者は、自分に次ぐナンバー2の幹部である革離を一人で派遣しました。
たった一人で現れた革離に対し、梁城の城主や重臣は「あなた一人で敵を防ぎきれるのか」と疑惑の目を向けますが、城内の全権を把握した隔離は着々と防衛体制を固めていきます。


いざ、趙の大軍がやってきて城を責め立てます。
緒戦では華々しく敵を撃退した梁城軍でしたが……。


ページ数は少ないですが、満足できる一冊でした。