「人見知り」は案外うまくいく


副題:不器用な自分のままで仕事と人生がうまくいく方法
著者:吉岡 英幸  出版社:技術評論社  2006年10月刊  \1,449(税込)  213P


「人見知り」は案外うまくいく


本書を読んで、「ツーテンジャック」というトランプゲームを思い出しました。
ご存じない方が多いと思いますので、簡単にルールを紹介します。


これは、2〜5人で遊ぶゲームです。4枚ずつカードを配り、1枚ずつ場に出して、一番「強い」カードを出した人が他の人のカードを獲得する。獲得したカードにはそれぞれ +10点から −10点まで「得点」が決まっていて、最後に合計得点を競う、というのが大筋のルールです。
このゲームには、ちょっと変わった特殊ルールがあり、誰か一人が全てのマイナスカードを獲得をすると、プラスとマイナスが反転します。つまり、マイナス点数のカードをたくさん持っていた人が、最後にプラスカード持ちになってゲームをひっくり返すことができるのです。(たしか、沢木耕太郎氏の著書でこのゲームの話を読んだ気がします)


『「人見知り」は案外うまくいく』は、「人見知り」というマイナスカードだとばかり思っていた性格が、突然プラスカードに逆転する。いや、逆転させる! という著者の熱意が凝縮した本です。


「人見知り」という性格はマイナスに評価されることが多く、「人見知り」本人も、周囲が対人スキルの劣った人間として自分を見ているのではないかと気にしてしまいます。
といって「成功したけりゃ自分を変えなさい」という自己啓発本の言うとおりに、無理して自分を変えようと努力すればいいのでしょうか。
著者は、こういう種類の本(オレ様系のサクセス本)が嫌いです。
逆に「そのままでいいんだよ」となぐさめてくれる本は、心の平安ばかりを強調し、ビジネスでのサクセスを放棄しています。
著者は、こういう癒し系の本も嫌いです。


「“超”人見知り」を自称する著者が、自身の経験をふまえて言い切るのは、オレ様系でも癒し系でもない第三の道、つまり、
  「人見知り」こそは、仕事や人生において最強のパーソナリティである
  超人見知りをうまく活かして輝かしい日々を送ることができる
ということです。


著者の長年の「人見知り」経験によると、社交的な人は、ちっともうらやましい性格ではありません。むしろ、よくしゃべる人ほど会話力が低く、さらけ出す人ほど自分をつくっているものです。
相手の話を聞かずに、自分がしゃべりたいことをしゃべることが習慣になっていますので、会話量が多くてもいっこうに会話力が高くなりません。むしろ、悪くなる一方。


かたや、人見知り人間は、人をランクで見たりせず、人を傷つけることもありません。好奇心に正直で、クリエイティブな仕事に向いていますので、カリスマと呼ばれる人はみんな人見知り、だそうです。


いやぁ、これは人見知り人間にとっては、自分の性格に自信を持てる話ですねぇ。今までに聞いたことのない逆転の発想のオン・パレードです。


それでも自信の持てない人のために、「超人見知りを元気にする魔法のコトバ」が各章の終わりに載っています。
ひとつだけ紹介しましょう。


   〜やらなきゃいけないことから逃げたいとき〜
     昨日の私がやったことに
     今日の私は責任が持てない


     今日の私に解決できないことは
     きっと明日の私が解決してくれる


ひとつ間違えば「魔法のコトバ」ではなく、「麻薬のコトバ」になりそう(笑)。


こんなに一生懸命に人見知り人間をはげましているのは、著者自身が、長年「このままでいいんだろうか」と苦しんできたからです。
著者の「だいじょうぶだよ」というメッセージは、若き日の自分自身に向けて発したものなのでしょう。


乙武さんが『五体不満足』で「障害は個性だ」と明るく登場したとき、きっと多くの障害者が勇気をもらった気持ちになったでしょう。


本書も、「人見知りはマイナス性格」と気にしている多くの人見知り人間に、たくさんの勇気を与えることでしょう。


人見知りで悩んでいる方はもちろん、困難な状況を打ち破りたいと模索している方にも、発想を逆転させるすばらしいヒントが散りばめられています。


ご一読あれ。