著者:藤原 正彦 出版社:新潮新書 2005年11月刊 \714(税込) 191P
ちょっと近寄りにくいタイトルです。
「品格」なんていうタイトルで本書く人は、ガリガリの右翼に決まってます。
きっと、
「西洋かぶれはイカン」
「日本の精神を見直せ」
「もっと愛国心教育をしろ!」
と主張しているに違いありません。
実際に読んでみると、「半分あたり、半分はずれ」でした。
著者が世界史を概観するところによると、中世の長いトンネルを抜けたヨーロッパで、ルネッサンス・宗教改革・ガリレイやニュートンなどによる科学革命が起こりました。
理性が解放されるようになって、ヨーロッパは初めて「論理」や「近代合理精神」というものを手にしました。これによって産業革命が起こり、その後の世界は欧米にやられてしまったのです。
――ほら、なんだか「鬼畜米英!」って叫び出しそうでしょう。
ところが、著者のような愛国者に我慢のならないこの状況にも、待ちに待った「綻び」が、ついにやってきました。
このあと著者は、見出しを拾い読みしただけで過激さがあふれている持論を展開します。
いわく、
先進国はすべて荒廃している
犯罪、家庭崩壊、教育崩壊
近代合理精神の破綻
共産主義は美し過ぎて目眩いをおこしそうな論理
徹底した実力主義も間違い
「資本主義の勝利」も幻想
主権在民とは「世論がすべて」ということ
国民は永遠に成熟しない
自由と平等は衝突し、平等と平等も衝突する
……etc.
著者の意見は、いかにも激越です。
一方、私の予想が「半分はずれ」たのは、愛国心についての著者の主張でした。
「愛国心」というのは明治になって作られた(らしい)言葉で、この言葉には「ナショナリズム」(国益主義)と「パトリオシティズム」(祖国愛)の両方の意味が込められていた、とのこち。
著者の次の言葉は、すんなり私の胸に入ってきました。
明治以降、この二つのもの、美と醜をないまぜにした「愛国心」が、
国を混乱に導いてしまったような気がします。
言語イコール思考なのです。
(中略)我が国が現在、直面する苦境の多くは、祖国愛の欠如に起因する
と言って過言ではありません。
本書は、講演で話した内容をベースにしていて、随所に著者のユーモアがあふれています。
なにしろ、本書の冒頭で、
いちばん身近で見ている女房に言わせると、私の話の半分は誤りと勘違い、
残りの半分は誇張と大風呂敷とのことです。
私はまったくそうは思いませんが、そういう意見のあることはあらかじめ
お伝えしておきます。
と念押ししているのです。
こういうお茶目な側面も見せているので、著者の主張する「武士道精神」「情緒の文化」「自然への感受性」も見直してみようか、という気になりました。
ガリガリの右翼ではなく、案外、いい人かもしれませんよ。