誤記ブリぞろぞろ


副題:校正の常識・非常識
著者:野村 保惠  出版社:日本エディタースクール出版部  2005年9月刊  \1,470(税込)  213P


誤記ブリぞろぞろ―校正の常識・非常識


自分の知らない分野の本を読むと、たった一冊読んだだけでずいぶん詳しくなったような気がするものです。本書は、私に「校正」という未知の世界を探訪させてくれました。ちょっと専門的で難しい部分もありましたが、あっちこっちにポストイットを貼りながら、とてもワクワクして読み終わりましたの。本作りに興味のある方にはお薦めですよ。


本書は、60年前から書籍づくりに関わり、もう30年も日本エディタースクールで校正を教えている著者が書いた最新の校正事情です。


校正というのは、作者の意図に従って読みやすい本を作るためのチェック行為をさします。
手書き原稿を元に活字を使った本作りをしていた頃は、原稿を正しく判読しているか、判読した通り活字がならんでいるかを確認する「引き合わせ校正」が重要な役割を占めていました。
活字が使われなくなった現在では、コンピュータで作業するからこその問題も浮上しています。ふだん何も気にせず使っている文字でも、違うコンピュータで同じ文字が表示されるとは限らず、違うプリンタで印刷すると違う文字になってしまったりもするというのです。ウィンドウズパソコンで原稿を書いても、編集・印刷に使われるコンピュータはプロ好みのマッキントッシュが多いというのが現実ですから、校正担当者は、注意深くチェックしなければなりません。


本書では、文章を正しく書くために注意すべきことをたくさん指摘していました。
たとえば、単語を囲むときに
   ”単語”
と書く人が多いのですが、正しくは
   “単語”
と書くべきです。
よーく見てください。クォーテーションマークは「起こし“」と「受け”」
の区別があり、必ず「起こし“」ではじめて「受け”」で終わらなければなりません。ふつうにキーボードで打鍵すると「受け”」に変換されてしまいますから、ご注意ご注意。
また、文章の終わりのテンテンは、ピリオドを並べて「...」と書くのではなく、二倍三点リーダ「……」を使う、とか、単語の間を結ぶ横線はハイフン「−−」ではなく二倍ダーシュ「――」を使うなど。勉強になります。
さすがに、
   吉野家の「吉」は正しくは「つちよし」で下が長いほうです
までくると、自分のパソコン上では指定のしようがありません。特殊な環境を持たない素人は、どこかで諦めなければならないのですね。


本のタイトルが「誤記ブリ」となっているように、本書の後半には、実際にあった誤記が30ページも引用されています。しかも、
  「ひ→しの読み間違い」
  「清音と濁音のミス」
  「ローマ字の入力ミス」
  「変換ミス」
などに分類されていますから、実際に校正を担当する人にとっては、貴重な「要注意文字」のデータベースです。


約物、詰め、追出し、字間を割る、アキ、ベタ、二分、四分、八分、柱、ノンブル、キッコウ、ブラケットなどなど。専門用語が分ったつもりになるだけでも、読む価値があります。(トリビアになりますが、「ルビ」の語源もわかりましたよ)
これで、「JIS Z 8208 印刷校正記号」を使えるようになれば、あなたも立派な校正者になれるかも。