副題:コラム・エッセイの王道
著者:山口 文憲 出版社:マガジンハウス 2001年3月刊 \1,365(税込) 221P
朝日カルチャーセンターの講座「コラム・エッセイの視点と発想法」で著者自身が講義した内容を元に書き下ろした文章講座です。
「うまい文章を書く秘訣はないが、まずい文章を書かないコツはある」という帯の言葉は魅力的ですが、著者の指導は厳しいですよ。ふつうの文章読本は読後に何か文章を書いて試してみたくなるものですが、本書を読み終わると文章を書くのがこわくなります。何か書こうとすると、「それは、書く必要のないこと、書いてはいけないことだ!」という著者の叱責が聞こえるような気がするからです。
著者は厳しくも、次のように指導します。
・うまく書けそうもないことは書いてはいけない
・誰かが書いていることは書かなくてよい
・自分が書きたいことを書くな、人が読みたいことを書け
・読者は嫉妬深くて猜疑心が強くてあげ足取り
・いちばんダメなのは、自分が書いたものが上手に見える人。
いやー、厳しいこと。
ブログやメルマガを書いている自分の姿に当てはめると、困ってしまいます。
最後の「いちばんダメなのは……」のところは特に耳が痛い。なにしろ私は、自分の文章を読みなおすたびに、「いやー、いい文章書けたなー。もう一回読み返そう」と思ってしまう“文章ナルシスト”ですから(笑)。
こんなに厳しくダメ出しされたら何も書けなくなってしまいそうですが、カルチャーセンターの文章講座を受講するような人には、このくらい言わないといけないのでしょうね。
ちょっとひねったユーモアが満載されている本書の中でも、「卑下」の難しさを述べた以下のくだりは最高ですよ。
よく、「私は生まれついてのおっちょこちょいで」みたいなことをお
書きになる。悪いことはいいませんから、あれはやめましょう。もしそ
ういいたいのなら、まあ最低でも、「天ぷら鍋を火にかけたまま外出し
て、新築のわが家を灰にしてしまったことがある」くらいの話でないと
だめです。
欲をいえば、これにもうひとつ、「車庫入れのときにブレーキとアク
セルをうっかり踏みまちがえて、亭主をひき殺してしまったこともある」
くらいの話もほしい。
そして、つまらない文章の自己卑下は自己讃美の枕詞にほかならない、と結論します。
さすがは「読ませる文章」を指導する講師だけあって、とてもすらすら読ませてくれ、笑っているうちに読み終わってしまいます。
でも、内容はとっても深〜い本です。