盲導犬クイールの一生

著者:石黒 謙吾【文】 秋元 良平【写真】
出版社:文芸春秋  2001年4月刊  \1,500(税込)  150P


盲導犬クイールの一生


ペットが好きな人を犬が好きな人と猫が好きな人に分類すると、私は「ネコ派」です。ですから、盲導犬をテーマにした本書がベストセラーになっていたなんて知りませんでした。本の大ヒットを受けて映画化され、その後、もうDVDにもなっているそうですから、ご存知の方も多いかもしれません。


私が、この「少し前のベストセラー」を今ごろ手に取ったのは、著者のお話を聞く機会があったからです。私のメンター松山真之助さんが主催する『すごい100冊クラブ』のキックオフ会議が2月10日に開催され(当日のブログ参照)、ゲスト出演された石黒謙吾さんに、本作りのあれこれを語っていただいたのです。
石黒さんは、ご自身で著者になることは少なく、書籍の企画・編集を中心に活動されておられるとのこと。常時50冊以上の本の企画を同時並行して進めているそうで、ちょっと余談になりますが、著者へ原稿催促することを「取り立て」と呼ぶ、なんていう業界用語も教えてもらいましたよ。


盲導犬というのは、どんな犬でもなれるわけではありません。
ブリーダー(産ませの親)から適性のある犬を選抜し、パピーウォーカー(盲導犬の育ての親)に人間と良い関係を結ぶ基礎を教え、盲導犬訓練センターで目の見えない人を安全に誘導するための本格的な訓練を施す、という段階を経て、やっと一人前の盲導犬が育てられます。
盲導犬には、生ませの親、育ての親、しつけの親がいる」ということを知ったことが、著者が本書を手がけるきっかけになりました。両親の離婚や継母の病死を経験している著者には、三人の母親がいます。また、父親と二人きりの生活を過ごした石黒少年にとって、犬は単なるペットではなく、親のいない寂しさを癒してくれる最高のパートナーでした。


クイールの生涯を本にすることを決めた著者は、関係者との信頼関係を結ぶところから本作りを開始します。クイールが仕えた視覚障害者の渡辺さんのご遺族(渡辺さんは重い腎臓病で亡くなっています)、クイールを撮影し続けた写真家の秋元氏、クイールの生ませの親、育ての親、しつけの親の信頼を得ることによって本書は作られました。
本に載せる写真を選び、配置してじーっと眺めてみるという作業を繰り返した著者は、最後に文章を書きました。それまでの準備作業に比べれば、驚くほど短時間で書き上げたそうです。


最初に仕えたパートナーが亡くなってしまい、クイールは余生をデモンストレーション犬として盲導犬の理解を深める活動に過ごしました。また、その後は、懐かしいパピーウォーカーの元で暮らすという晩年を送ることができました。訓練センターに送り出した犬とは会わないようにする、というのがパピーウォーカーの条件です。ふつうの盲導犬は晩年のを世話する別のボランティアの元で最期を迎えますので、クイールの場合は特別なはからいでした。


皆の愛に包まれながら、クイールは最期に白血病で亡くなりました。