その日のまえに


著者:重松 清  出版社:文藝春秋  2005年8月刊  \1,500(税込)  292P


その日のまえに


本書の帯には、
   涙! 涙!! 涙!!!
   最も感動的な小説だ。
   僕のベスト1に決めた!
という松田哲夫氏の推薦の言葉が書いてあります。
ベストセラーになっていることに少し抵抗を感じましたが、メルマガでココロにしみる本を紹介している私としては、読まずにおられません。
図書館に申し込んで約半年。やっと順番がきて、手に取ることができました。


本書は、別冊文藝春秋2004年3月号から2005年7月号に掲載された、7編の短編で構成されています。
いずれもの短編も、若くして(10代〜40代で)死を宣告された人が登場し、本人や家族がどのようにして死に立ち向かっていくのか、死を受容していくのかを追っています。


 「ひこうき雲」では、不治の難病にかかった小学校6年の女の子が、
 「朝日のあたる家」では、夫を突然亡くした女性教師の10年後が、
 「潮騒」では、癌を告知された中年男性のセンチメンタルジャーニーが、
 「ヒア・カムズ・ザ・サン」では、女手一つで育ててくれた母の癌の告知
が描かれ、
 「その日のまえに」「その日」「その日のあとで」
の最後の3連作では、やっと経済的に楽になった矢先に癌を告知された妻との最後の日々、遺された家族が日常生活にもどっていく様子が描かれています。


アマゾンの本書紹介ページを見ると、もう60人もの読者が感想を載せています。寄せられた感想には、
  「こんなに泣けるとは思いませんでした」
  「涙が止まらなくなって読み続けられなくなり、困りました」
という人もいれば、
  「『死』を真っ向から直球で書かれても案外泣けません」
  「全体的にちょっとあざといんだな、これが」
という人もいました。




私自身はどうだったかというと、涙を流すところまでは行きませんでした。
といって、本書を「あざとい」などと言うつもりはありません。本書に登場する主人公たちが真正面から死を受けとめ、悲しみと希望を家族と分かち合っている姿はココロにジーンと沁みます。しみじみとした感動を覚えました。
私が落涙まで至らなかったのは、きっと、肉親の死を迎えたことがなく、「親友の死を悲しんだ」という経験をしていない、という私自身の“臨死”経験によるものでしょう。


自分や家族が癌を告知されたらどうしよう、などと考えこんでしまいそうな方、「死」に対して不安やストレスのある人は、読まない方が良いかもしれません。
死に向き合った経験の少ない人にこそ読んでほしい本です。