不登校という生き方


副題:教育の多様化と子どもの権利
2005年8月刊  著者:奥地 圭子  出版社:日本放送出版協会  \966(税込)  238P


不登校という生き方 教育の多様化と子どもの権利 (NHKブックス)


私の娘は、昨年の春に幼稚園の年少クラスに入園しました。
それまで、親といっしょに行動する生活しか経験していません。近所に同年代の子どもが全くいませんでしたので、はじめての集団生活です。他の子とお友達になれるだろうか、トイレは一人でできるだろうか、毎朝決まった時間に出かけられるだろうか、etc.……。カミさんと私の心配のタネは尽きません。
幸い、娘は幼稚園生活が気に入ったようで、毎日、喜々として通園バスに乗りこんでいます。運動会や発表会などの行事を経験し、ますます幼稚園が好きになりました。もう、「今日は行きたくなーい」と言い出すようなことはないでしょう。
ひと安心すると、今度は小学校生活が心配になってきました。いじめに会わないだろうか、勉強についていけるだろうか、不登校になったりしないだろうか、etc.……。カミさんと私の心配のタネは尽きません(笑)。
少し、心の準備をしておいた方がいいかもしれない、と手に取ったのが本書です。


著者は公立小学校の教師を22年間務めた後、不登校の子どもたちを受け入れる「東京シューレ」というフリースクールを開設しました。20周年の節目を迎えた「東京シューレ」の活動を振り返った本書では、不登校を問題行動と見るのをやめましょう、多様な教育を実現しましょう、と提言しています。


著者自身も、我が子の“登校拒否”を経験したことがあります。転校先で受けるからかい・いじめ、先生不信などを押し殺していた著者の息子は、無理して登校していましたが、運動会を乗り切ったとたん、とうとう拒食症になってしまいました。
拒食がはじまって3ヵ月した頃、子どものありのままを受け入れることを大切にする渡辺位(わたなべ たかし)という児童精神科医を訪れた著者は、目からウロコの経験をします。
ふつうに2時間ほど話をしただけに見えたのですが、面談が終わったあと息子は「腹減った、おにぎりが食べたい」といったのです。
  「僕は僕でよかったんだね。渡辺先生に会ったら、そう思ったよ」
といった息子は、その日から普通の食事ができるようになりました。
学校信仰をやめること、それが本当の不登校への対処法、と著者が開眼した瞬間です。


何が何でも学校に通わなくてはいけない、そうしないとロクな大人にならないよ、という“常識”の呪縛はたいへん根強いものがあります。
本書に登場した実例の中でも、最も切なかったのが「廊下登校」です。
その子は教室に入ることができなくなり、廊下に机を一つ出してもらいました。お母さんも同伴登校し、ガラス戸に耳をつけるようにして授業を聞く生活を一年半もすごしたのです。休み時間には子ども達がジロジロ見ながら通りすぎ、風がトンネルのように抜ける冬の廊下は、耐え難い寒さでした。
「お母さん、がんばってますね」と母の愛情を先生からほめられ、歯をくいしばって続けていましたが、ある朝、とうとう二人とも玄関から出られなくなりました。
  「何のためにあんなつらいことをやってきたのだろう。このつらい一日
   一日を乗り越えていけば、いつか皆と同じように教室で授業を受けら
   れるようになると信じてやってきたのに逆だった」
との母親の言葉には胸をえぐられます。


学校に行かなくたっていい。子どもを苦しめ、追いつめるのは、もうやめましょう、という著者の信念に貫かれた一書でした。