2005年9月刊 著者:金井 壽宏・田柳 恵美子 出版社:かんき出版 \1,575(税込) 253P
テレビ・映画で大ヒットとなった『踊る大捜査線』から20個の名セリフを選び、そのセリフを題材にして組織論を展開する、という趣向です。著者は『ウルトラマン研究序説』なんていう本も書いているそうですから、面白おかしいお遊びの本、……と思って読みはじめたら大間違い。
なんと! 大まじめに会社観、組織観を論じていて、会社生活の生きがいとか自分の将来などを考えさせられてしまう、とってもカタイ本でした。
なんせ、「本気で組織論!」なんていうコラムが何箇所もあり、聞いたこともない学者の学説の解説が続きます。コラムだけじゃなく本文にも、「ハーバード大学のL.コールバーグによる『ハインツのジレンマ』」だの、「ミシガン大学のR.リッカートは組織は様々な集団から構成されていることを強調した」だの、知らない学説や、よく聞けば知っていることを難しく言いなおした人の言葉などがバンバン出てきます。
全体的に難しい内容でしたが、印象に残った個所を二つだけ紹介します。
その1。
『踊る大捜査線』の舞台となる湾岸署と警視庁は典型的な官僚組織です。
官僚組織というと、縦割り、硬直化している、などとマイナスイメージが付きまといますが、官僚制組織を最初に研究したマックス・ウェーバーはプラスに評価しているそうです。
ウェーバーは、官僚制組織の中に、職務執行の正確さ、迅速性、一貫性、没人格性(情実の排除)を保つための秩序など、大きな組織を効率的に動かすための特徴を見出しました。これらの官僚制の特徴は、人間が組織を運営する上で最も理にかなったやり方であり、これ以上の方法はないだろうというのが、ウェーバーの主張です。
官僚制も捨てたもんじゃないんですね。
その2。
柳葉敏郎が演じる警視庁の室井は、いつも上層部の横やりや邪魔にさらされて額にシワをよせています。ふつうの神経では、長期間一生懸命頑張っても成果として報われない場合、燃え尽きてあきらめの境地に達してしまいます。心理学者のM・セリグマンは、これを「学習された無力感」と呼びました。
著者は、無能のかたまりのように見えるスリーアミーゴスも、「もしかしたら彼らは、かつてはものすごい能力や洞察力の持ち主だったのだが、長い間、努力の報われない環境下にあって、そうした力をすっかり抑え込んでしまった人たちなのかもしれない」と指摘しています。
おまけに、有能で元気すぎてすぐに口出しをしてくる上司よりも、かえって彼らのような「無能キャラ」のほうが、現場は自由に動けるし、組織の風通しもよくなる、と3人を弁護するようなことまで言っています。
ちょっと褒めすぎのような気もしますけどねー。
どちらも、ものごとを反対から見ることの大切さを教えてくれているようでした。
著者は、このドラマの魅力を次のように絶賛しています。
子どもや学生、若手は、青島刑事や恩田刑事に、ミドルは、室井やスリー
アミーゴスの両方に、もっと年上の人たちは、和久指導員に気持ちを一
体化して見ることができる。こういうことは、組織を学ぶ中に世代間連
携というテーマを浮かび上がらせ、非常に貴重なことである。
思ったより難しく、思ったより考えさせられる内容でした。眉間にシワをよせてお読み下さい。