生きる意味


2005年1月刊  著者:上田 紀行  出版社:岩波新書   \777(税込)  228P


生きる意味 (岩波新書)


「人生の目的」「生きる意味」というのは、人類はじまって以来の永遠のテーマといっても過言ではありません。お釈迦様やキリストなどの多くの先哲が解きあらわした悟達の世界に分け入ると、とても新書では書ききれないような分量になってしまいます。
本書は、この大きなテーマをバブル崩壊後の日本の社会状況から説き起こし、どうすれば自分自身の人生を創造的に歩むことができるかを提案しています。


経済不況に苦しんでいる私たちは、「生きる意味の不況」にも悩まされています。それは若者だけの問題ではなく、毎年3万人以上の自殺者のうち三分の一が中高年で占められているように、「いい大人」も直面している問題です。
世界全体から見ればまだまだ経済的に恵まれている日本、戦後の困窮状態とは比べ物にならないくらい経済的に豊かになったはずの日本。その日本の経済成長を支える過程で、私たちは、「みんなと同じ欲求を持ち、みんなと同じ人生を目指すよう」に仕向けられてきました。そして、学校の成績に代表されるように、何でも数値化して点数の上昇だけを評価されて、均質で効率的な人間を目指す社会になってしまいました。
その結果、若者は「どこにでもいそうな自分」に自信が持てず、大人は交換可能な部品として簡単にリストラされるという事実に直面するようになりました。おまけにグローバルスタンダードという効率性重視の社会は、自己価値を高く保つための不断の努力と、市場の評価という「他人の目」を重視する生活を一生続けなければならない、という「安心できない社会」でもあります。


こんな大変な時代に生きる私たちが「生きる意味」を取り戻すには、どうしたらよいのか。詳細は本書を読んでいただくとして、敢えてキーワードだけ抽出すると、著者は「あれもこれも、ではなく、一点豪華主義こそ人生の満足度が高い」と言っています。釣りバカ日誌のハマちゃんのような生き方です。
また、自分自身の生きる意味を模索するときは、「ワクワク」と「苦悩」が重要。ワクワクを相乗効果させるため、苦悩を分かち合うためのコミュニティーは内的成長を助けてくれる、とのこと


「生きる意味」というのは、あまりにもストレートな書名なので、どんなところに連れていかれるのか少し心配でしたが、いい本に出会えて良かった、と思える本でした。本人が生き悩んでいた頃の体験も少しだけ紹介されていて、著者の応援メッセージがズシン、ズシンと心に響いてきます。
生きる意味に悩んでいる人はもちろん、今は人生絶好調! という人にもお薦めの一書です。