なぜ企業不祥事は、なくならないのか


副題:危機に立ち向かうコンプライアンス
2005年3月刊  著者:国広 正・五味 祐子  出版社:日本経済新聞社   \1,680(税込)  281P


なぜ企業不祥事は、なくならないのか―危機に立ち向かうコンプライアンス


企業不祥事が次々と報道されるなかで、コンプライアンスとかCSRという言葉をよく見かけるようになりました。しかし、多くの企業でコンプライアンス(法令及び企業倫理の順守)という言葉を使っているものの、なかなか社内に根付いていないのが実情のようです。
本書には、企業法務専門の弁護士である著者が、いままで扱ってきた様々な案件を分析し、なぜコンプライアンスがうまく機能しないのか、どうすれば会社の隅々まで浸透するのかを示しています。
会社の不正が発覚すれば、時には会社の存続自体が危うくなるほどダメージを受けるというのに、どうして不祥事を報道される会社が後を絶たないのだろうか、という一般読者の単純な疑問を解決してくれます。


どうして不祥事は無くならないのか、という疑問への答えは、「企業が変わろうとしていないから」「今まで通りで良いと思っているから」です。著者が実例として挙げる山一證券の「飛ばし」や、2004年のプロ野球合併問題の「たかが選手」発言に代表される閉鎖性は、そのままでは社会の支持、市場の支持を得られなくなってきています。不透明さ、隠蔽体質が顕著になるだけで、ダメージを受けるのです。
この古い体質から抜け出せない理由の一つは、「あってはならない」の呪縛が強すぎることのようです。何か間違いを犯した時に、「あってはならない」→「発表すると大変なことになる」→「無かったことにしよう」とウソをつき、一つのウソの辻褄を合わせるため、次から次とウソをつくことになります。
著者は、「危機管理広報で大切なことは『報道されない』ではなく、『報道を一回で終わらせ、連続報道を防ぐこと』なのである」と指摘しています。この言葉を広報担当者が知っているかどうか、また企業のトップが理解しているかどうか、が重要です。何か問題が発生したときに、その後の事態の推移は全く違うものになるでしょう。


そもそも、深刻な事態を招かないように企業内に法令順守の風土を作るにはどうしたらよいか、そのためには内部告発もチェック機能として活用していくべきこと、等々。説得力のある事例もいっぱいです。企業のコンプライアンス担当者には、絶好の入門書・実践書になるかもしれません。