専門馬鹿と馬鹿専門


副題:つむじ先生の教育論
2005年4月刊  著者:なだ いなだ  出版社:筑摩書房   \1,575(税込)  212P


専門馬鹿と馬鹿専門―つむじ先生の教育論


本書は『婦人之友』連載の「つむじ先生の処方箋」に連載した原稿の中から、教育に関するものを選んだエッセイ集です。
「つむじ先生」というのは、精神科医である著者が自分自身を呼ぶ時の名前で、先生は「つむじ曲がり」を自認、いや、むしろ是認しているようです。


もちろん、つむじ先生は専門馬鹿ではなく、馬鹿専門です。馬鹿の代表として、先生は利巧な人に鋭い質問をします。
たとえば、大学入試センター試験について。
「国語と英語と数学と社会の点数の平均とはなんですか。(中略)数学100点で国語0点の人と、国語100点だが数学0点の人は、平均点では同じになりますが、同じなのでしょうか」
子どもの頃にこの質問をすると、大人たちはきまって「馬鹿なことを言っていないで、勉強しなさい」と答えてくれなかったそうです。あまりにも本質を突いていて、実は答えられなかったのでしょう。
同じように、文部省が実施したアンケートの質問項目やお役人の作文の内容にも、つむじ先生は疑問を呈します。馬鹿専門の先生が発する言葉はユーモラスですが、強烈な毒を含んでいて、胸の中で「そうだそうだ!」と叫び出したくなりました。これは面白い!


本書には、つむじ先生の家族も登場します。「先生の奥さん」は「先生の人生の同行者」という呼び方もされています。きっと先生はフェミニストなのでしょう。
なかなか良い味を出しているのが、孫たちです。中でも夏休みで先生の家に遊びに来た中学生の孫の行動には笑ってしまいました。
しょうが焼きの肉だけを先に食べた孫は、ご飯を皿に盛ってもらうとマヨネーズをかけて食べ始めました。実は、この孫はふだんはフランスで暮らしており、日本人の血が四分の一しか混じっていない、とのこと。
目をつぶって「うめえ」とつぶやく孫が言うには、「やっぱりマヨネーズは日本のに限る」とのこと。
つむじ先生は考えました。ご飯を皿で食べたようがマヨネーズをかけようが、外国人と思うと許せる。でも日本の習慣から外れている、と目くじらを立てはじめたら、憎しみにまで発展するかもしれない。ということから話題は進み、先生は民族紛争にまで思いを致します。
同じように、孫がフランスで9・11テロの犠牲者の黙祷を経験した、という話から、黙祷とは何のためにするのか。結局、政治的なものなのだ。と結論しました。
「死者を悼む気持ちは自然な感情です。その感情を政治が利用したいときに、黙祷という儀式が行われるのです」と著者は解説しています。


スカッとした読後感のあと、自分もつむじ先生のように馬鹿専門になってみようかな、と思わせる本でした。