悪夢の果て


2003年6月刊  著者:赤川 次郎  出版社:光文社(カッパノベルス)  \820(税込)  208P


悪夢の果て (カッパ・ノベルス)


著者の赤川氏は『イマジネーション』(5月19日のブログ参照)で、「最近きなくさくなった日本が戦争への道を進まないように、小説家として何かメッセージを発信していきたい」という意味のことを語っていました。
著者は、この意図を具体化するため、出版社の垣根を超えた「闇からの声」シリーズを企画します。2001年のことでした。
政治の動きだけでなく、社会の風潮にも違和感を覚えた著者は、「現代社会の『闇』を照射し、未来を生きる若い読者たちに警鐘を鳴らしたい」「今必要なのは、諦め、無気力になることを拒んで『希望』を語ることである」と、具体的作品を書き継ぎました。


本書は、その「闇からの声」シリーズの小説4編をまとめています。
書名にもなっている「悪夢の果て」は、著者の分身を思わせる売れっ子作家が主人公。青少年にボランティア活動を義務化する法案を審議していて、日本が戦争への道を歩む第一歩になることを懸念しています。ボランティアが義務化され、自衛隊体験入隊する「ボランティア活動」を選択することが入学試験や入社試験に有利となれば、やがて戦争に反対する人の意見を封殺する世論が形成され徴兵制につながる、というのです。
自分の反対意見が排除されていく不快な経験をしているうちに、ある日、主人公の作家は、太平洋戦争中の日本にタイムスリップしてしまいます。そこで受けた仕打ち(言論弾圧され、家族に危害を加えられる)は、正に「悪夢」そのものでした。


また「雨」は、独裁体制を確立しようとする総理大臣がクーデターを実行する物語。総理自身が暴走する恐さは、6月10日のブログで紹介した同じ著者の『さすらい』を連想させました。
他に、アメリカ式の弱肉強食の世相が民間会社に広がることの恐怖を描いた「凶悪犯」や、電車事故を解明していくうちに明らかになる真実を扱った「後ろ姿の英雄」が収められています。


「このいくつかの物語は、絶望を通して希望を描いた、私なりのメッセージだ」という著者です。赤川氏が感じる危機感と希望に耳を傾けてはいかがでしょうか。