2005年4月刊 著者:浅田 次郎 出版社:河出書房新社 \1,680(税込) 269P
私は「鉄道員(ぽっぽや)」の映画を見たことがあるだけで、浅田次郎の本はまだ読んだことがありません。ちょっと気になる作家ですので、まず対談集を読んでみることにしました。
本書に掲載されている対談相手は14人。陳舜臣、宮部みゆき、渡辺淳一など同業者が多いです。作家というと「独自の世界を持っていて、他の作家と話が合わない」と思っていましたが、本書ではお互いの生い立ちや作風について率直に意見を交換し、打ち解けています。きっと、ホスト役の浅田次郎の人がらがそうさせるのでしょう。
岩井志麻子からは彼女の得意な「岡山県」ばなしを引き出し、中村勘九郎(現・勘三郎)からは歌舞伎の台本を書いてくれと懇願され、くつろいだ対談が展開されていきます。
何人かの対談の中に、著者の『蒼穹の昴』が登場していました。中国の清朝末期を舞台に張作霖や西太后が登場する歴史小説のようです。何回も登場するので、今度読んでみようかな、という気にさせられました。(ちょっと長そうですが……)
対談相手と意気投合することの多い著者ですが、特に山本一力とは「莫大な借金を背負った経験」という共通の話題で大いに盛り上がっています。著者は29歳で一億円の負債を抱えて倒産した体験を語り、山本一力は二億数千万円の借金を返すために作家になろう(?)と決意した苦しい日々をふりかえります。そりぁ意気投合しないわけがありません。
作家は肉体労働だ、とか、売れっ子になっても注文を断るのはやっぱり怖い、などの共通点を確認しあった二人。最後に最高級のもてなしとして、お互いが大切にしている言葉を披露し合います。
著者はあるパーティーでの体験――表彰を受けた僻地医療に貢献してきた医師がパーティーを中座するときのこと。「これで失礼します。患者が待っていますから」と言ったことを聞き、著者の胸が震えた体験――から、「自分の読者の人生や生き方に影響を与えるかもしれない」という意識を忘れないようにしたい。「読者が待っている」と普通に言えるようになりたい、という決意を明かしました。
ゲスト役の山本一力は、しんどい時にずっと支えにしてしてきた「明日は味方」という言葉を明かしました。ひたむきにやっていれば、必ず明日は味方になる。誰にでも来るはずの明日を敵にするか味方にするかで、生き方が全然変わってしまいますから、と。