メンタリング・マネジメント


2005年1月刊  著者:福島 正伸  出版社:ダイヤモンド社  \1,575(税込)  253P


メンタリング・マネジメント―共感と信頼の人材育成術


「メンター」という言葉をよく耳にします。正確な意味も知らず、私も
   「私が勝手にメンターとして尊敬している Webook の松山真之助さん」
という使い方をしていました。
その「メンター」とは何か、という説明から本書は始まっています。
メンターとは、「他人をやる気にさせる究極のリーダー」であり、「他人を本気にさせ、どんな困難や問題に対しても挑んでいく勇気を与える」人のことです。
本書では、企業の経営手法の一つとしてメンターによるマネジメントを解説していますが、最初の数ページを読んだだけで、単なるノウハウ本でないことが分ります。


  「はじめにまず上司が常に正しく、部下が常に未熟である、という意識
   を捨てなければならない」
  「人間と人間の関係においては、単なる手法になってしまったものは、
   もう相手には伝わらない」
  「人材育成の問題は、人間関係の根本的な原則から考えれば、とても簡
   単に解決できる問題です」
  「その原則とは『他人を変えたければ、自分を変えれば良い』というこ
   とです」


そうです。メンタリングとは、生き方の姿勢なのです。
「究極の」というだけあって、メンタリングは3つの行動基準しかありません。「見本」「信頼」「支援」です。
とてもシンプルに見えますが、それぞれ、生き方の根本に関わる姿勢を変革させる手法ですので、とても厳しい内容です。


たとえば、「見本」について述べている章では、「部下は上司の鏡のようなもの」と著者は指摘します。部下がやる気が無いのは、自分にやる気がないから。自分のことしか考えていない部下が多いと感じるのは、上司自身が自分のことしか考えていないから。
すべて、自分に跳ね返ってきます。これは厳しい。
だからこそ、回りを笑顔にするためには、まず自分が笑顔になればいい。というのが、「見本」です。何も会社生活に限ったわけでなく、「親が子から学ばなければ、子は親から学べない」とも指摘しています。
また、「信頼」の章では、「信頼とは、相手がこちらの思い通りにならなくとも、そのまま受け入れることです。いわば、『信頼できない人を信頼すること』が信頼なのです」と言っています。福島さん、そりゃ無理ですよ、と言いたくなりそうですが、こちらの生き方の根本から変えるからこそ、相手もこちらの話を聞くようになる、という説明には納得するしかありません。
確かに、その通りです。
相手にばかり問題の原因と解決を求めているから、うまくいかないのでしょう。自分が変われば、相手も変わる。相手がすぐに変わらなくても、自分が変われたことを喜ぶことができれば、人生、どんなに明るくなることか。
「支援」についても、「支援とは手法ではなく、姿勢です」「相手を支援しようとする気持ちがあれば、具体的な支援の手法は問いません」と、シンプルですが、とても高いレベルを要求しています。


ここまで書いてみて気づきましたが、短く要約してしまうと、本書の核心が伝わりません。
「自分を変える」なんていう簡単そうで不可能そうなことを「やってみよう!」という気持ちにさせるのが本書の核心です。「他人をやる気にさせる究極のリーダーシップ」を本気で身につけるためには、実際に本書を手にとって、著者と対話してみるしかありません。これ以上の内容紹介はやめておきましょう。


ここからは、「支援」について感じたことを書きます。
本書の「支援」の章には、聞く・相談に乗る・助言する等の15個の具体的手法を解説しています。その15番目の「そばにいる」というのも、「いつでもそばにいる、どんな時も相談に乗る」という手法で、自分がリーダーとして実践しようすると大変なエネルギーを必要とするでしょう。
逆に、自分が支援を受ける側に身を置いて考えると、これほど生きる勇気が湧いてくるサポートはありません。


以前、3月18日のブログで紹介した大平光代著『あなたなら、どうする』にも、次のような印象的な言葉がありました。
   (あなたのことを)私が見てる。
   私が分ってる。
   私がいつでもそばに居る。
著者が大阪人ですから、最後の「居る」には「おる」とルビがふってありました。
また、5月12日のブログで紹介した『夜回り先生』こと水谷修氏も、子どもたちのそばに居てあげるために夜回りを実践しつづけています。
ふたりとも、非行に走りそうになった子どもたちにとって、どれほどの励ましになるメッセージを送っていることでしょうか。


もう一つ、思い出したメッセージがあります。
ある私学の創立者が卒業式の祝辞で述べた言葉です。
   社会の現実は厳しい。卒業生諸君の中には、社会的・経済的に失敗し、
   人に後ろ指をさされる状況になる人もいるかもしれない。
   場合にはよっては親に見離されるかもしれない。
   しかし、私はどんな時でも卒業生諸君の味方です。いつでも戻って来
   なさい。
記憶で書きましたので、正確な表現ではありませんが、こんな内容だったと思います。 私学をうらやましいと思ったことはありませんが、この話を聞いた時は、「この学校の卒業生になりたかった」と思いました。


メンターの道は険しいですが、たくさんの生きがいに出会える道です。
しばらく、この本を座右に置いておこうと思いました。