漢方小説


2005年1月刊  著者:中島 たい子  出版社:集英社  \1,260(税込)  138P


漢方小説


都会ではたらく独身女性のストレスにオズオズと向かい合い、何とか出口を見つけていく31歳「みのり」の物語です。
著者は多摩美出身で、シナリオライターが本業のようです。芥川賞直木賞ほど有名ではありませんが、本書は第28回すばる文学賞の受賞作です。


「みのり」は、元カレが結婚すると知った日に、突如として体が暴れだし、ロデオマシーンに乗っているようにガタガタとふり回されました。救急車で運ばれる途中にいったん震えはおさまりましたが、その後も冷たいもの、コーヒー、香辛料などの刺激物を胃に入れると、体内ロデオマシーンのスイッチがオンになります。
いくつか病院を転々としましたが、原因がわかりません。最後に言われるのは「最近なにかストレスを感じるようなことがありませんでしたか?」という質問です。「昔の男が結婚したショックが原因なんて、ぜぇーったい、死んでも思いたくないっ!」という「みのり」は、5軒目に漢方診療所を訪れました。その漢方診療所の一風変わった診察とは……。


「みのり」の行き付けの居酒屋に集まる飲み仲間は、「奥さんに別居された」オッサンや「ラブ欠乏症でバツイチ」の志保さんなど、なぜか満たされない心の持ち主ばかりです。
飲み仲間から傷つく言葉をかけられたり、なぐさめられたり、漢方診療所で聞いたインヨウゴギョウセツを解説してもらったり。不思議な心地よさの中で、「みのり」の胃腸は少しずつ回復していきます。
おだやかな漢方治療と同じように、おだやかな時間が流れる小編でした。ぼーっとしながらお読み下さい。


本書に登場する漢方診療所は、「みのり」をそのまま受け止めてくれました。病院というのは患者を治療するところ、癒す場所ですから、患者の状況に合わせてくれると本当に助かります。
最近、私も、病院の良い対応にジーンとしてしまう経験をしました。
1週間前のことです。カミさんが急に39度の熱を出し、全く食事を受け付けない状態になりました。大きな病院は待ち時間が長いので、近所にある開業したての内科医院に初めて行ってみました。
受付を済ませたカミさんが待合室で待っていると、看護士さんが声をかけてくれ、「かなりお苦しそうですね。診察まで、こちらでお休み下さい」と、ストレッチャーに寝かしてくれました。椅子に座って待っているのもつらい状態でしたから、この配慮には救われる思いがしました。
医師の診察時もこちらの話を良く聞いてくれたそうで、フラフラになりながら、カミさんは感動の思いを私に訴えていました。
この病院を「かかりつけ」にしよう、と決めたのは言うまでもありません。


ホスピタリティの大切さを実感する経験でした。