子どもが減って何が悪いか!


2004年12月刊  著者:赤川 学  出版社:ちくま新書  価格:\735(税込)  217P


子どもが減って何が悪いか! (ちくま新書)


少子化対策に種々の政策案が叫ばれていますが、最近の論調では「女性が仕事と子育てを両立できる環境が整っていないから少子化が進む」ということになっており、女性が仕事と子育てを両立できるような社会的支援の必要性が論議されています。
著者は、男女共同参画社会を目指すのは結構なことで自分も賛成であるが、それが出生率を上昇させるというのはウソだ。と言いきります。そもそも10年前には「女性の社会進出が少子化の原因」と語られていたのに、短期間に少子化の原因が180度逆転するのはおかしい。その論拠となる統計は、一部のデータがわざと外されているような恣意的なデータなのだから、学問に携わる者の務めとして「間違っているものは間違っている」と発言することにしたのが本書です。


1章から3章までは、「男女共同参画社会の実現は出生率低下に影響を与えない」ということを、重回帰分析を駆使して数字で証明します。そして「この数字を素直に解釈するなら、子持ちの夫婦をさらに支援するような政策より、独身男女に出会いの場を提供したり(お見合いパーティー?)結婚費用を肩代わりするような結婚奨励策のほうが、2倍効果があるかもしれない」と言います。「かもしれない」と言われてもねぇ……。
4章からは、子どもを産んだからといって報奨されるのはおかしい、共働きが夫婦にばかり優遇するような制度は、お国が国民の生活の方向性を規定しようとすることだから、「選択の自由」の理念に反している。と、ますますパワー全開です。とうとう本書のタイトルである「子どもが減って何が悪いか!」を叫び、「現行の年金制度が破綻するなら、新しい方式にすればいい」と大胆に言い切りました。


どうも、学者としての良心に忠実であろうとしているようなのですが、読んでいて、ちと疲れました。
「選択の自由」のためには、何かを選択しても懲罰も報奨されない制度が望ましい、というのは、正しい理念なのかもしれません。でも、実際の私たちの生活は、配偶者控除や児童手当や奨学金などの“報奨”を国から受けています。ヘンな理念に合わせるために、これらを全廃するなんて無理な話です。
増して、あんなにすったもんだして一段落した年金制度を「根底から変えるべき」とういのは、机上の空論に聞こえてしまいます。政治は妥協と駆け引きの産物ですから、学問の世界から正論を叫ばれてもタテマエにしか聞こえません。
……という私の感想も著者は予想していたようです。「想定の範囲」といわんばかりに、著者は「あとがき」に書いています。
   キャプテンハーロックは、「男には、負けるとかっていても戦わ
   なければならない時がある」と述べた。小島直也は、2004年
   のPRIDE.GPでハッスルした。男であれ女であれ、負ける
   とわかっていても戦わなければならない時もある。それが、いま
   の心境だ。
もともと、本書のタイトルも、機動戦士ガンダムブライト・ノアが「殴って何が悪いか!」と叫んだのをもじったものとか。
自らがオタクであることを隠さない元気な学者が書いた問題提起本でした。