2005年1月刊 著者:大道 珠貴 出版社:講談社 価格:\1,575(税込) 213P
著者が「しょっぱいドライブ」で芥川賞を受賞したときの記者会見の受け答えが印象的でした。大きな賞を取って嬉しいはずなのに、ちっともはしゃいでいません。ふてぶてしいといってもいい落ち着いた態度。きっと読者にウケようなんて考えない作家なんだろうなぁ、と感じました。
ところが、40歳独身女性である本書の主人公は、妹や弟の子供たちと遊ぼうとして「ゆっくり振り返って口からちょろりと豆乳を流してみせる」というおどけたことをします。しかも「鼻とか目から出せたらなあ。もっとよろこばせられたかもしれんのになあ」とつぶやきました。人間嫌いの主人公が登場するに違いないという私の先入観は、はじめから外れてしまいました。
でも、読み進んでいくうちに、やっぱり“ふつう”じゃない主人公の生い立ちや家庭環境が明らかになってきます。かつて駆け落ちして舞い戻ってきた経験のある母。お互い信頼していない父母なのに崩壊しているわけでもない家庭。弟とは信頼関係があるのに妹1と妹2という名前の必要最小限の会話しかしない二人の妹。「腐れ縁」となってしまったかつての親友。体を触れあっても最後の一線を超えようとしない恋人。主人公は、感動も楽しみも無縁な世界でもぞもぞと生きています。
ピンクの表紙にピンクの栞ひも。一見キャピキャピの装丁は、ちょっとしたサギです。これも著者が「口から豆乳を流してみせた」ようなものなのでしょう。
男とも女ともうまく人間関係を結べない主人公が、心の傷にウオッカを吹きかけながら過ごす物語。自分が何者かを確かめる期間を「青春」とすれば、これは40歳の青春小説といえるでしょう。