教育と国家


2004年10月刊  著者:高橋 哲哉  出版社:講談社現代新書  価格:\756(税込)   211P


教育と国家 (講談社現代新書)


教育基本法の改正が盛んに論議されていることに対し、国家主義的な教育へと向かうのは反対である、という著者の考えをやさしく解説した本です。


凶悪な少年犯罪が起こると、必ず「戦後の教育が命を粗末にする風潮を招いた。だから教育基本法を改正すべき」という政治家の発言が新聞に載ります。これを「戦後教育悪玉論」と言うのだそうですが、著者は最初にこの種の発言の二つのウソをあばきます。
①凶悪な少年犯罪は、戦後10〜15年後がピークである。犯罪を犯したのは戦前教育を受けていた少年である。
②今の教育基本法に、生命の尊厳を教育することをきちんと謳っている。命を大切にすることを教える、という理由で改正する必要はない。
続いて、教育基本法を改正しようとする人々の目的は「お国のために命を投げ出しても構わない日本人を作ること」であり、そのための愛国心教育、宗教的情操の涵養である、ということを著者は指摘します。
本来ならば、法律が教育を規定すること自体に反対、という著者ですが、国家主義的な教育へと向かう流れが再び強まってきた現在、教育基本法はむしろ教育の自由を保障する砦になりうる、という考えを表明して本書は結ばれています。


本書を読んで思い出した逸話があります。
ある財界人が「右翼と左翼ってどうちがうんだ」という質問をしました。「簡単に言うと、『戦前の国家体制・教育は間違っていなかった』というのが右翼、『間違っていた』とういのが左翼です」と答えたところ、「困ったなぁ。それじゃ私は左翼かい?」と呟いたとのこと。
この財界人は、きっと戦争経験者なのでしょう。昭和30年代生まれの私がいうのも何なんですが、最近社会が右傾化しているのは、戦争の記憶、戦前の軍国主義の記憶が薄れてきたのでしょうか。
自他共に右翼を認じる石原都知事のお膝元の東京都では、入学式・卒業式の日の丸掲揚・君が代斉唱が教育委員会から通達されました。単に通達するだけでなく、実際に行っているかを監視し、従わない教職員の処罰、反省を促す研修への強制参加、と教師への圧力は強まるばかり。最近は子どもたちが君が代を大きな声で歌わないと担任が処罰される、という脅迫まで行っているそうです。
東京都でこんなに日の丸・君が代の押し付けが進んでいるとは知りませんでした。私の住んでいる神奈川県も同じようなものなのでしょうか。
重苦しい社会になったものです。
私は影響されやすい性質ですので、自分の子供の入学式で君が代斉唱があったら、座ったままで無言の抗議をしようか、なんて本書を読んで思いました。でも、著者のように信念の人に成りきれないので、奇異な目で見られたら、おずおずと起立してしまうかも……。