ボクって邪魔なの?


2004年4月刊  著者:吉永 みち子  出版社:小学館  価格:\1,470(税込)  255P


ボクって邪魔なの?


本書には、教室が荒れて小学校教師が苦悩する姿を描いた2つの小説が載っています。
一つ目の「再生の朝」は、学級崩壊・引きこもりに直面し、同時に自分の娘が拒食症になってしまった40代女性教師が主人公。二つ目の「7年目の曲がり角」は、学級崩壊の元凶と思っていた教え子が命にかかわる虐待を受けていることがわかり、苦闘する20代後半の男性教師が主人公です。


本書は『小一教育技術』という誌面に連載していました。読者が現場の教師ですから、問題に立ち向かった先生が何らかの新境地を開いて問題も一段落します。一応ハッピーエンドになっているので、帯にも「心温まる物語」と書いてあるのでしょう。
しかし、問題に正面からぶつかっていく、自分が成長していく、というのは簡単ではありません。本書に描かれている教師間の人間関係は冷たく、お互いに助け合おうとする習慣がなくなっています。管理職である校長や教頭は、とにかく事なかれ主義で、「なんとかしたまえ。こんなことが世間に知れたら困るんだよ。わかっているのかね、君は!」などと文句を言うばかりで、相談できる人がまったくいません。主人公の話を親身になって聞いて暖かい助言をしてくれたのは、経験豊かな養護教諭や、同僚から落伍教師と思われていた人でした。


本書では、きのうまで幼い小学生と思っていた教え子が教師や親を見下すような言動をします。緊張感に満ちたとても迫力があるやり取りです。もうすぐ幼稚園生になる自分の娘も、あと5年もすればこんなふうな態度になるんだろうか、と考えると、他人事にはできませんねぇ。帯に「つい引き込まれて読んでしまう…」と書いてあるのは本当でした。


吉永みち子といえば、「気がつけば騎手の女房」という自伝ノンフィクションで有名になりましたが、もう20年も前のことなんですね。その後いろいろあって、今は騎手の女房でなくなったようです。そんな著者が教育関係の取材を重ねていたこと、取材成果を小説のかたちで発表していたことは知りませんでした。


虐待、学級崩壊、ひきこもり。著者が取材した問題は、今も教育現場で起こっているのでしょうか。
そういえば、朝日新聞の第3社会面に「がっこう」という連載コラムがあり、最近は「荒れる教室」をレポートしています。2月3日に紹介されたのは、大阪の中学3年生のクラスの様子です。学校が荒れて、廊下や階段に生徒がつばを吐き、ガムや吸殻を捨てます。生徒に何かを感じてもらおうと、教師が率先してごみ拾いをするのですが、雰囲気は変わりません。ある日、男子生徒が目の前でお菓子の袋を捨てて、「拾えや」と言います。数日後には女子生徒がごみを拾っている教師の尻を蹴とばしました。
おとなの世界が“勝ち組”とか“負け組”と人を選別する風潮なのを反映しているのでしょうか。子どもたちも、相手を目下だと思うと殺伐とした行動を起こしているのですね。

小さな子どもを持つ親の一人として、心の準備が必要であることを教えてくれる一書でした。