恥ずかしい読書


2004年12月刊  著者:永江 朗  出版社:ポプラ社  価格:\1,365(税込)   238P


恥ずかしい読書


著者の肩書きは、フリーのライター兼エディターです。昔から本が大好きで、とうとう本を読むことを仕事にしてしまったという、根っからの読書人です。
本書では、そんな著者が本と戯れている様子がうかがえます。


冒頭に登場してびっくりするのが「歯磨き読書」。そんな3分くらいの短い時間に本を読んでどうするの? と思ったら、著者の歯磨き時間は15分〜30分。しかも、毎食後のことなので、一日に1時間〜1時間半も歯磨きに時間をかけていることになります。こんなに時間がかかるのでは、この間に読書するのもうなずけます。
この他、「写しながら読む」「本を逆さに読んでみる」「本を裸にする」など、著者の本遊びはどんどんエスカレートしていきます。そのうち「本を煮る」「本を焼く」なんて出てきたらどうしよう、なんてワクワクさせてくれました。こんなに本と遊んでいる人に出会ったのは、私の覚えている範囲では椎名誠以来ですねぇ。
本書から少し離れますが、椎名さんは「『文藝春秋』を完全読破する!」という目標をたて、表紙から順番に広告も目次も写真のキャプションも、何から何まで書いてある文字をすべて読む、という冒険の一部始終を実況中継報告していました。たしか『もだえ苦しむ活字中毒者地獄の味噌蔵』という本の雑誌社初の単行本(たぶん)に載っていたエピソードです。本書を読んで、「ここにも、椎名さんと同じ人がいる!」と、うれしくなりました。


とにかく読書時間が長い著者のことですから、自分の視力がどんどん落ちているのを気にしています。「晩年のサルトルのように、人に本を読んでもらうような生活はしたくない」「年寄りになっても読書を続けたい」と強く望んでいるので、眼科の医師に診察を受けたりして、何とか目を悪くしない読書の方法はないか模索します。本の角度、明かりの当て方を研究した結果、数万円もする高価な「バイオライト」を購入したりします。そして、とうとう「電車のなかで本を読むのはやめる」という読書人生最大の決断をします。
毎日何時間もパソコンの液晶画面に向かっている私からすると、少し神経質すぎるような気もするのですが、視力がどんどん落ちるというのは、確かに恐いことですものね。お気持ちは分ります。でも、電車に乗っている間が唯一の読書時間という人も多いはず。電車内の読書をやめたとたんに読書人生が終わってしまいますので、ちょっとマネできないですね。


「東京ブックトリップ」と題した書店めぐりツアーも出てきます。大学生協とアマゾンしか知らない学生たちに東京の書店を教えてやりたい、という東大の御厨教授の依頼で、巨大書店や零細書店、専門書店めぐりをする話です。渋谷阪急ブックファースト、池袋リブロ、ジュンク堂池袋店、千駄木往来堂「文脈棚」、神保町東京堂の「軍艦」、……。
ここに挙げられた書店は、一軒もいったことがありません。
私も本が好きなほうだと思っていましたが、この本を読んでいると、とても「本が好き」なんて言えなくなってしまいそうです。上には上がいる、と納得する本でした。