私は産みたい


2004年12月刊  著者:野田 聖子  出版社:新潮社  \1,260(税込)  191P


私は、産みたい


拝啓
野田 聖子様


『私は産みたい』を読ませていただいた、一読者です。


衆議院選挙だったか参議院選挙だったか忘れましたが、国政選挙で自民党が不調に終わった後、あなたが朝日新聞に発表した一文を読みました。内容は、「国民の幸せを実現していく真の政権与党に生まれ変わらなければならない」という趣旨でした。古手議員の批判と解釈されて執行部を怒らせるかもしれない内容を堂々と発表したことに驚き、「この人は、ただの人寄せパンダじゃないんだ。真剣に日本の将来を考えている人なんだ」と感じました。
それからは新聞に野田聖子の記事が載ると目を通していましたが、そんなあなたが本を出したというので、さっそく手にとりました。
いまだに厳しい男性社会である(とこの本にも書いている)政界に属するあなたが、自分自身の不妊治療や妊娠・流産の体験について本を出すというのは、とても大変なことだったと思います。きっと、永田町では様々な批判が渦巻いているかもしれませんが、そんな“業界人”の繰り言を気にするようなあなたではありません。歯牙にもかけず日本の将来を担う指導者への道を突き進んでいかれることと思います。


本書には、不妊治療を開始した経緯から始まって、体外受精でやっと妊娠した我が子を流産してしまうまでの出来事と、その中であなたが感じた不安や悲しみを率直に書いておられます。赤裸々に自分をさらけ出された勇気に、まず拍手を送りたいと思います。
不妊治療がこんなにも大変だったことを今まで知りませんでした。同じ悩みを持つ人は、著名人であるあなたが本書を発表したことによって勇気付けられたことでしょう。
本書の持つ素晴らしい影響力は感嘆に値しますが、一方で、政治家野田聖子へ要望したいことが本書を読むことによって湧き上がってきました。以下に、私の感想、意見を2つ書かせていただたいと思います。お気に召さない内容があるかもしれませんが、最後まで読んでいただければ幸いてす。


一つは、初めての体外受精に失敗した回想場面を読んだ時に感じたことです。そこには「それまでは、新たに障害が分っても、それは必ず努力で乗り越えられると思っていました。多少なりともその努力で報われてきた人生。しかし、いま私の目の前に突きつけられた現実は、もしかしたらもう自分の力では解決できないのかもしれない」と書いてありました。
あなたがここで言いたかったことと違うかもしれませんが、私はこの一文を読んで、“勝ち組”の一人である野田聖子、自分の力だけで全てを解決してきたと自負できる強い人を見てしまいました。
競争社会では99%の人がなんらかの「負け」を背負っています。私たち「庶民」にとって、現実社会は努力しても乗り越えられない障害だらけです。
国民の幸せを実現していくためには、政治的な“力”を持つ必要もあるでしょう。強くなければ勤まらないことも分ります。しかし、あなたが勝ち組の一人であることに無自覚であるとすれば、それが弱者のために何かを「してあげる」という姿勢として現れてくるのではないでしょうか。庶民が求めるのは、手を差し伸べてくれる権力者ではなく、自分たちと同じ気持ちを持った共感者なのです。
あなたが、これから本当に国を背負っていくのであれば、「自分の力で解決できないことを経験した」ということを大切にしていただきたいと思います。政治家は大病や入獄を経験しなければ本物ではない、という言葉を聞いたことがあります。きっと、一度は挫折して人生を見直すべき、という意味なのでしょう。今回、あなたが不妊治療を開始して初めて感じたこと、自分自身の身体でありながら自分の思い通りにならない苛立ち・もどかしさ、というものが、庶民と共感できるきっかけになれば幸いです。


もう一つの感想は、本書に書かれていなかった不妊治療の費用のことです。
不妊治療は健康保険が適用されず、治療費も高額と聞きました。体外受精は1回あたり数十万円もかかるそうですね。不妊治療シンポジウムなどでは、経済的に恵まれているあなたにとってもこの経済的負担が大きいことを語っているようですが、本書では全く言及していませんでした。あなたの苦しみが「結局は、お金持ちの贅沢な悩み」と思われることを懸念したのでしょうか。
もしそうだとすれば、あなたの「庶民」の理解度はまだまだ浅いと言わざるを得ません。庶民は、お金持ちであることを隠さない人間に羨望は覚えますが、それによって傷つくことはありません。むしろ、お金持ちであることを隠す人間に出会った時に、「あっ、この人は私をかわいそうな人だと思っている」と気付き、そのことによって傷つくのです。
自分が少々お金持ちであることをあなたが隠そうとしているうちは、真の庶民の味方にはなれないでしょう。


以上、お気に沿わない内容を書き連ねました。日本の将来を担う指導者に育つために、参考にしていただければ幸いです。
                                 敬具