座右のゲーテ


2004年5月刊  著者:斎藤 孝  出版社:光文社(光文社新書)  価格:\735(税込)  218P


座右のゲーテ -壁に突き当たったとき開く本 (光文社新書)


何事かを成し遂げた人、俗に言う“偉い人”は必ず「座右のことば」「座右の書」を持っているようです。
本書は、著者が感銘を受けたエッカーマンの『ゲーテとの対話』から、著者が特に大切と感じる「知を追求する技法」を選び、解説を加えたものです。


著者がゲーテの魅力に取り憑かれたのは30代になってからです。研究者として身動きがとれない状況に陥っていた時に、ゲーテの言葉が飛び込んできたそうです。逆境の中で自分を支えてくれたことば、道を開いてくれた書物こそ「座右」に置くべきものなのでしょう。
本書は、まずゲーテの言葉を紹介した後、その内容を実証するような古今東西の例を挙げて解説していきます。レオナルド・ダ・ヴィンチニュートン宮沢賢治瀬古利彦、等々。柔らかいものでは、マンガ『ゴルゴ13』や『サラリーマン金太郎』も例として挙げていますし、著者自身の経験も実例として出てきます。
著者自身も、いまや「何事かを成し遂げた人」ですから、自分を例に引いても構いません。ただ、さすがに次の例はどうなんでしょうか。曰く「私もかつて、松田聖子のCDアルバムなどを愛聴していて、仲間からはたいへんバカにされた。(中略)どんな領域であれ、いちばんいいものは尊重することだ」。
そうはいっても松田聖子とはねぇー。ちょっと引いてしまいますねぇ。


また、ゲーテが折に触れて言ったアドバイスを抜粋しているので、矛盾していにように聞こえる内容もあります。たとえば、「16 性に合わない人ともつきあう」では、若いうちは誰とでもつきあうことの大切さを訴えていますが、「15 同時代、同業の人から学ぶ必要はない」は、つきあいをせばめることを推奨しているようにも読めます。
同じく、「21 当たったら続ける」では、同じパターンをくり返すことを勧めていますが、「29 過去に執着しない」では昔取った杵柄は捨てるようアドバイスしています。今の自分はどちらのアドバイスを採用すべきなのか、道に迷っている時にはかえって混乱しそうな気もします。きっと、その時点で心に響いた言葉に従うことになるんでしょうね。万能のアドバイスなんて存在しないのですから。


本書の「まえがき」にも書かれていますが、ゲーテはベストセラー作家・詩人・脚本・演出・科学・政治などの多くの分野に一流の足跡を残し、おまけに生涯にわたって情熱的な恋までした巨人です。
私は高校時代に『若きウェルテルの悩み』を読んだことはありますが、その後はゲーテに近寄ったことがありません。
著者が選んでくれた31の言葉には感心する内容も多かったのですが、私自身の座右の言葉にするには、残念ながらゲーテに対する思い入れが足りないことが分かりました。
ゲーテとの対話』は岩波文庫で3冊もありますので、今からアタックする気力は沸きません。でも、『座右のゲーテ』を座右に置いて、ときどき読み返すこともいいなぁ、と感じました。