あなたのマンションが廃墟になる日

副題:建て替えにひそむ危険な落とし穴
2004年4月刊  著者:山岡 淳一郎  出版社:草思社  価格:\1,890(税込)  286P


あなたのマンションが廃墟になる日――建て替えにひそむ危険な落とし穴


私の住んでいるマンションは築20年を過ぎていますので、マンションの管理・修繕とか建て替えとかいう話題が気になります。そんな時「あなたのマンションが廃墟になる」というショッキングな題名を目にして一気に読んでしまいました。


自分がマンションに住んでいながら、マンションがどんな法律で規定されているのか、行政がどんな政策を行ってきたのか、ほとんど知りませんでした。本書は、とても勉強になる本であると同時に、ぼんやりしていると今住んでいるマンションから追い出されるかもしれない、という危機感を呼び覚ましてくれる本です。
皆さんはご存知でしたか。
マンションの所有関係を規定する法律である区分所有法は1983年と2002年の法改正で、建て替えを推進しやすいように変更されたことを。
それまでは「全員合意」が原則だったのに1983年の法改正で「五分の四以上の賛成」と条件が緩和され、2002年には客観要件を削除した区分所有法改正案が成立してしまいました。
客観要件が削除された、ということは、修理すればまだ使えるかもしれないマンションでも、「ともかく建て替えればいいじゃないか」というお金に余裕のある所有者が8割に達すると、建て替えられてしまうということです。賛成できない残りの2割の人は建て替えに伴う負担を負いきれない可能性が高く、もしも強引に建て替えが行なわれれば、参加できない人(主に高齢者)は「住宅難民」にさせられてしまうのです。
自分が高齢に達した時のことを想像すると、とても恐ろしい話です。


本書の第1章「さまよう老朽団地」で紹介されるのは、稲毛海岸三丁目団地の実例です。
この団地は、老朽化に対応するため建て替え案が提案され、大手デベロッパーや公団の協力を取り付けようとしている間に、どんどんマンション相場が下がっていきました。
一方、いずれ建て替えるのだから無駄なお金は使えない、と修理・修繕が見送られた結果、水道管に穴があいたり雨漏りしたりするようになります。7kgの外壁のコンクリートが剥離して落下する事態も発生しました。
当初は無償でもっと広い新居に住めるというバラ色の構想に97パーセントの人が賛成しましたが、住都公団が提示した条件は「住居面積の還元率87パーセント」。無償建て替えならば、かえって狭くなる、というものです。条件を練り直すたびに、少なくとも500万円の自己負担金、住宅ローン残金の完全返済など、条件は厳しくなるばかり。熱心に建て替えを進めようとしてきた推進委員長が、最後には突然転居して行方不明になるという不審な事件も起こり、2000年5月に開かれた住民集会で、僅差で建て替え案が否決されました。
今、この団地は、賛成派と反対派に分裂してしまったコミュニティを再構築し、怠っていた修繕を一生懸命行っているところだそうです。
この実例の恐ろしいところは、もし2002年の法改正の後に住民集会の議決が行われたとしたら、建て替え案が成立していた、ということです。高齢化した住人に建て替えへの経済的余力はありません。建て替えられたとしたら、多くの人がこのコミュニティから弾き出されていたことでしょう。


鉄筋コンクリートで長期間使えるはずなのに、なぜか日本のマンションは「30年」という欧米の3分の1にも満たない短い期間で破壊され新築されている、と著者は言います。大手不動産会社や建設会社の強い圧力を指摘する著者は、その元凶である田中角栄に舌鋒鋭く迫ります。
単に過去を糾弾するだけでなく、神戸震災で表面化した被災マンション建て替え問題、破壊せずに建物を再生させるリファイン建築の実例、太陽の光を利用したシステムや「無暖房住宅」、定期借地権の本来の姿など、今後の希望のタネも著者は提示しています。
著者の「スクラップ&ビルドは結局、高くつく」という主張が伝わってくる一書でした。