夜は満ちる


2004年6月刊  著者:小池 真理子  出版社:新潮社 価格:\1,470(税込)  235P


夜は満ちる


最近、女性の書いた小説に触れていないので、誰か新しい作家を読んでみようと思って手にとりました。著者については全く予備知識がない状態で読み始めました。


前書きも後書きもなく、タイトルと帯からは、なんとなく官能的な印象を受けます。本書は7編の短編で構成されますが、最初の一編は、通夜に出席するために久しぶりに上京する女性が主人公です。東京で勤めていた時に上司と不倫関係になったのですが、その元上司の妻が亡くなったという知らせを受けたのです。通夜の会場に向かう途中、以前同じ職場だった男性と偶然一緒になりますが、彼と亡くなった元上司の妻が不倫関係にあったことが回想場面で明かされました。何だかグチャグチャの人間関係を読んでいて気が重くなってきましたが、読み進んでいくと、彼女を見た人の顔に恐怖の色が広がる場面が突然現れました。彼女が通夜の帰りに乗ったタクシーの運転手も「わーっ」と大声を上げて飛び出していきます。
そうです。彼女は不倫に疲れて郷里に戻ってしばらくしてから、首を括っていたのです。タクシーの後部座席で彼女の身体はゼリーのように溶けだし、そして消えていきながら上司の名を呼ぶところで最初の一編が終わりました。


恐いー!


なんか、すごい本を読み始めてしまいました。
読み進んでみると、他の6編も必ず後半に生霊だの死霊だのが出てくる連作小説でした。しかも、前半では生きている人間のオドロオドロしい男女関係が描かれています。帯に書かれていた「愛と悦楽の恐怖を綴った物語の宝箱」とはこういうことだったのか、とやっと分りました。


結局、恐いもの見たさで、最後まで読んでしまいました。最初は女性作家が書いたエロチックな場面というのが珍しかったのですが、毎回「肌を合わせる」という決まり文句で性の描写が始まりますので、だんだんワンパターンに見えてきました。決して読後感が良いものではありません。
でも、ひょっとすると、それが著者の狙いなのかもしれませんね。以前「ぼっけえ、きょうてえ」で日本ホラー小説大賞を取った岩井志麻子のインタビューを読んだ時に、気持ち悪いと言われると嬉しい、というようなことを言っていました。小池真理子も同じ系統なのかもしれません。少なくとも本書の読後感は「ぼっけえ、きょうてえ」に似ていますので、“ぞくぞくする話”が好きな人にはオススメです。
あー、気持ち悪くて恐かった。