漫画の深読み、大人読み


2004年10月刊  著者:夏目 房之介  出版社:イースト・プレス  価格:\1,355(税込)  310P


マンガの深読み、大人読み


著者は、週刊朝日の「デキゴトロジー」にユーモラスなイラストを書いていた漫画家で、現在の肩書きは「マンガコラムニスト・評論家」です。


本書は、99年から03年までのエッセイや取材記事のエッセンスをまとめたもので、『ドラゴンボール』と『ドラえもん』を比べたり、『クレヨンしんちゃん』が正統派マンガであることを論じてみたりしています。
圧巻なのは『巨人の星』と『あしたのジョー』を論じた第2部です。ここで著者は、自身の作品への思いを吐露し、作者・作者の未亡人へのインタビュー、当時の編集長の思い、編集スタッフの苦労話取材などを通じて、ふたつのマンガがどれだけ画期的な作品だったかを明らかにしていきます。


とても気楽に楽しめる内容がほとんどですが、少しむずかしい話も混じっています。それは、90年代後半からマンガも学術的な研究をされるようになってきたことに原因がありそうです。
著者は85年に『夏目房之介の漫画学』という本を出しましたが、その頃は「漫画学」などという学術分野がなく冗談で「学」を付けていました。ところが、最近は本物の「学問」になってきたようで、学術的な見地からシビアなチェックが入るようになったそうです。それは、夏目氏のような民間人が商業的エッセイとして(おもしろおかしく)書いてきたことに対して学研の徒から批評・批判されるようになった、ということで、夏目氏は、ある若手学徒の鋭い批判を受け入れて自分のマンガ論を再構築しはじめたそうです。
それが原因かもしれませんが、本書の一部には著者が本気で学術的な表現をしている文章も混じっています。だからといって、急にまじめな口調になった著者につきあう必要はありません。私のように「学問」に関係ない一般読者は、気楽に読める箇所だけ読んでいれば良いのです。


ただ、出版当事者は気楽にしていられないようで、海外で日本のマンガが受け入れられるようになったことによる著作権対応やプロモーション戦略も問われているそうです。90年代半ばにピークを迎えたマンガ週刊誌の部数も下降していますので、「いいものをつくれば売れる」といっているような時代ではなくなりつつあるとのこと。
そんな業界も垣間みることのできる一書でした。