ハーバードからの贈り物


原題:Remember Who You Are
2004年9月刊  著者:デイジー・ウェイドマン
出版社:ランダムハウス講談社  価格:\1,260(税込)  190P


ハーバードからの贈り物 (Harvard business school press)


ハーバード・ビジネススクールでは、期末の最後の授業で学生への人生のアドバイスをスピーチする伝統があるそうだ。本書はその珠玉のメッセージを一挙掲載している、とのことで手に取った。
確かに「珠玉」ということばが当てはまるような心に沁みるメッセージにあふれていて、15人の教授の話は、どれひとつ退屈するものはない。輝かしい将来が約束されているMBA課程の若き学生に向けたスピーチだが、人生に立ち向かう姿勢を教えている内容はエリートだけに聞かせておくのはもったいない。ぜひご一読あれ、という一書である。


私自身が身につまされたのは、この本の着想を得た時の著者自身の境遇である。著者は大学卒業、4年間の銀行勤務の後、自身のキャリアアップのためハーバード・ビジネススクールで学びはじめた。しかし、当時のアメリカは著者が生まれて初めて経験する不景気の真っ只中にあり、就職の当てもなく、学生ローンの金額だけが増えていく不安な日々を送っていた。
アメリカの学生の何割が学生ローンを抱えているか知らないが、25年前の私も奨学金残高が増え続ける中で大学院へ進んだ学生のひとりだった。食うや食わずの苦学生、というわけではなかったが、親の援助をあてにできない経済環境の中で高校の頃から合計6種類の奨学金を借りており、大学院へ進学することにより返済総額が更に2倍半に増えることになった。本書の「はじめに」を読んで、あの頃の不安に満ちた日々を懐かしく思い出した。


25年前の私には特にドラマチックなことは起こらなかったが、本書の著者はハーバード・ビジネススクール伝統の最終講義を聞いて、人生に立ち向かう勇気を取り戻すことができた。そして、このすばらしい講義を本にまとめることを思い立つ。
そんな著者が本書のために選んだのは、何不自由ない環境でエリートコースを歩んできた人ばかりではない。
インドの小村に生まれた父親の苦学経験を自らの教訓とする教授、過去に3回ハーバードから不合格通知を受けた教授、清掃婦をしながら育ててくれた母を誇りにする教授、etc.。


こんな教授たちの人生のアドバイスを見逃す手はない。