「上司」という仕事のつとめ方


副題:完璧なリーダーシップなんてありません!
著者:松山 淳  出版社:実務教育出版  2008年9月刊  \1,575(税込)  293P
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昨日取りあげた『あたりまえだけどなかなかつくれないチームのルール』では、著者の小倉さんがリーダーに「もっと頑張れ!」とプレッシャーを与えていました。
今日の『「上司」という仕事のつとめ方』著者の松山さんは、対照的にリーダーのストレスを解放してくれる人です。
それは、副題の「完璧なリーダーシップなんてありません!」にも表れていますが、「はじめに」でも、つぎのように宣言しています。

 巷にあふれる上司が手にする本は「リーダーシップ」「マネジメント」関係のものを含めて、最終的には「もっと強くなれ、もっと有能になれ」とばかりに、上司としての完璧さを求めるようなものばかりです。

 完璧な人などいません。
 完璧な上司もいません。
 人は、ときにどうしようもなく弱くなる存在です。


松山さんは、次のように語りかけます。

  • カリスマ上司になんてならなくていい
  • 嫌いな部下がいるのは普通のことです
  • できる人もできない人もいるのが職場です
  • 上司だって「やる気」を失うときがあっていい


ときにヘルマン・ヘッセドストエフスキーのことばを引きながら、松山さんは心の奥深くに励ましを送ってくれます。
「プラス思考」が強調されすぎる時代に一石を投じる一書といっていいでしょう。


歯をくいしばってガンバっている人は、本書のことばに心をわしづかみにされて、ぐっと来てしまうかもしれません。


そんな時は、無理せず泣いてしまいましょう。
松山さんも言っています。
  「つらいときには、泣くのが一番。
   涙は、そのためにあるのです。(中略)
   人は、毎日、毎日、前向きに生きられる動物では
   ありませんし、そんな必要もありません。
   いつも笑顔じゃなくたっていいんです」


本書の第5章には、問題ある職場の例が、これでもかというくらい登場します。
部下を潰してしまう上司、会話のない職場、中年管理職の心の危機など、悪い例がたくさん登場し、対処法を解説しています。この章を読んでいて、私は不思議な安心感を覚えました。


ひとつは、「自分の職場は、ここまでひどくない」という安堵。
もうひとつは、「どんなにひどくなったとしても、何か打つ手はある」という安心感です。


もうひとつ、個人的に「ドキッ」としたひと言を引用します。

 私たちは、生きながらにしてさまざまな終わりを経験します。


このひと言で、社内の人事異動でまったく職種が違う職場に異動したときのことを思い出しました。
徹夜がなくなり、残業も激減し、勤務時間は信じられないくらい短くなったのに、鬱々とすごしていたあの頃。
――そうか。あれは、生きながらにして「終わり」を経験していたんだ。


空いた時間のおかげで読書時間が長くなり、書評を書きはじめたことで、私は新たな「生」を生きはじめました。


松山さんの言うように、新たな「季節」をむかえたのです。